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最後の国民的番組? 42年続いた『水戸黄門』が愛され続けた理由
一番の見どころはやっぱり…

「この紋所が目に入らぬか!」—掲げられた印籠とこの台詞が、月曜夜のお約束だった。黄門様の世直し旅が国民的番組になるまでの軌跡を振り返る。

向田邦子も脚本を書いた

荻野 テレビドラマ『水戸黄門』の放送が始まったのは'69年8月でした。着物の絵付け師だった祖父がファンで、私は子供の頃から観ていました。

進藤 僕は西村晃さんの二代目黄門が始まった'83年から制作スタッフに加わり、'11年12月のシリーズ最終回まで見届けました。由美さんは、私より黄門様との付き合いが古いんですよね。

由美 ええ。私は初代黄門時代に何度もゲスト出演して、二代目黄門の第16部('86年)から「かげろうお銀」という女忍者の役でレギュラーになりました。その後、四代目黄門から役が「疾風のお娟」に変わり、五代目黄門にも出演しました。

荻野 由美さん演じるくノ一はいつもカッコ良かった。ちなみに、定番となったお風呂シーンはいつからだったんですか。

由美 レギュラーとしての初入浴は第16部の1話目からありました(笑)。まだ敵だったお銀が黄門様の命を狙うべく、混浴するシーンになります。

荻野 ストーリーに目を向けると、悪事を働く代官や商人を懲らしめ、困っている庶民を助けるという勧善懲悪の物語が基本です。これを1000回以上も続けるのは大変だったのではないでしょうか。

進藤 ある程度パターンが決まってましたから、似た話が多くなるのは仕方ないですよね。

荻野 当初は脚本家のクレジットが「葉村彰子」名義になっていましたが、実際は複数の人が担当されていたとか。

進藤 宮川一郎さんや向田邦子さんなど、今思えば錚々たるライターばかりでした。

由美 定番のパターンといえば、各部の第1話は「人気に火がつくように」との願いを込めて火事のシーンを盛り込むことが多かったです。忍者姿で炎のそばで立ち回りをするんですけど、ナイロン製のタイツが溶けそうになって、大変でした。

進藤 ありましたね。「煙が足りないから、炎のそばに行ってスモークを焚け」と言われたりと、現場のスタッフも命がけ。

荻野 それから、各シリーズに一度は出る「ニセ黄門」の回もやはり定番。

進藤 あれは、次期黄門役の候補者をテストする意味もあったんです。実際、二代目の西村晃さん、三代目の佐野浅夫さんもニセ黄門を演じたことがあるんです。

200回以上入浴しました

由美 でもやはり、水戸黄門で一番の見どころといえば、「印籠」を出す場面でしょう。

進藤 たしかに、視聴率が高くなるのは印籠のシーンでした。

荻野 最初のシリーズの脚本を担当した宮川さんに聞いたのですが、ドラマ開始当初は、印籠の扱いについてスタッフ間で議論があったそうです。印籠という「権威の象徴」を見せるだけで問題が解決していいのか、と。でも宮川さんは、ドラマの中にはスカッとする瞬間が必要だということで出すようにしたそうです。

進藤 第1部では、印籠がほとんど出ていないし、はっきり掲げずにちらりと見せるだけということもありました。第2部以降、格さんじゃなく、助さんが出すこともあった。

荻野 それがだんだん、格さんが出す形に定着していったんですね。

由美 「うっかり八兵衛」も印籠を出したことがあるんですけど、私は忍者だから機会がなかった。一度はやってみたかった。

荻野 印籠が出るのは、だいたい8時45分と言われていましたが、決まっていたんですか。

進藤 特に決まりはなかった。視聴者をびっくりさせるために、ドラマが始まってすぐ印籠を出す回もありました。「いつも同じ時間に出すと思ったら大間違いや」って(笑)。

荻野 蒸し返すようですが、水戸黄門といえば、由美さんの「入浴シーン」も忘れてはいけません。

由美 全部で200回以上、入ったんです(笑)。最初は毎回ではなかったんですが、あるとき、クイズ番組で「水戸黄門で由美かおるが風呂に入るのは何時何分?」という問題が出たそうです。それを聞いたプロデューサーから「話題になるから毎回、入ってください」と言われたんです。

進藤 ヒノキ風呂とか五右衛門風呂とか、様々な風呂を作りましたね。スタジオの土を掘り返して大がかりな岩風呂のセットを作ったこともあった。

由美 あの時は、少しずつお湯が減っていったので大変でした。お芝居しているうちに胸元が見えそうになるから、体を沈めてごまかして(笑)。

進藤 入浴シーンを撮るときは、なぜかスタッフの数が増えるんですよ。

荻野 取材で現場に行ったとき、スケジュール表に「入浴」って書いてあるのを見たことがあります。みんないつ入るのか知っていたんですね(笑)。

由美 視聴者から「うちのおじいちゃんは入浴シーンを見届けたら眠ってしまいます」というファンレターをいただいたこともありました。一服の清涼剤として楽しんでいただけたのなら嬉しいことです。

荻野 由美さんは歴代すべての黄門様と共演していますが、それぞれどんな印象がありましたか。

由美 初代の東野英治郎さんは貫禄があって、黄門様らしい方でした。

進藤 ただ、東野さんは癇癪持ちで撮影が深夜まで続くと不機嫌になられて、ひどい時は奥さんを呼んでなだめてもらったこともあったとか。

由美 二代目の西村さんはすごくダンディな黄門様で、おしゃれでした。

進藤 運動神経の良い人でしたね。衣装を着たままローラースケートを履いて、軽やかに撮影所を移動していました。

荻野 三代目の佐野さんは人情味があって、「泣き虫黄門」と呼ばれました。

由美 優しい方でした。佐野黄門の時代には、みんなで高齢者施設の慰問によく行きました。

荻野 四代目の石坂浩二さんは、シリーズで初めて「ヒゲのない黄門」を演じて話題になりました。

由美 石坂さんはとても物知りな人でした。撮影の合間に、難しい字を杖で地面に書いて、「こういう意味なんだ」と教えてくれるんです。

荻野 そして最後の黄門様となる五代目は、かつて助さんを演じた里見浩太朗さんでした。

由美 里見さんはシワもなく、美しい黄門様でした。どんな仕草をしてもきらびやかだった。