ゴルフ
プロゴルフツアー、選手はもう「大金」だけでは動かない?
アイディア勝負の欧州ツアーを見習え
2006年6月、「フェデックスカップ」導入を発表する米PGAツアーのティム・フィンチェム会長〔PHOTO〕gettyimages

文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

ドキドキの新システム?

米ツアーにフェデックスカップが導入され、初めて実施されたのは2007年のことだった。

年間を通じたポイントレースを行ない、シーズンエンドには4試合のプレーオフ(ザ・バークレイズ、ドイツ銀行選手権、BMW選手権、ツアー選手権)を開催。最終戦終了後、最大ポイントを獲得した総合優勝者には10ミリオン(1000万ドル)のビッグボーナスを授けるドキドキの新システムだ。当初は「えっ? 10ミリオン!?」と誰もが驚く、それはそれは画期的な新施策だった。

だが、初年度に総合優勝に輝いたのはタイガー・ウッズだったため、「フェデックスカップは米ツアーがタイガーのために創設したシステムにほかならない」と、米メディアからずいぶん揶揄されたものだ。

2年目の2008年は最終戦を行なう前からビジェイ・シンの総合優勝が確定してしまい、「一体どこがドキドキのシステムなんだ?」と、再び批判が巻き起こった。

以後、幾度にも渡ってシステム改良を行ない、現在は最終戦に進出するトップ30名の誰にも総合優勝に輝く可能性が残されるシステムとなり、以前のような批判の声は影を潜めている。

だが、それでも昨年は「どっちが上か? 何が上か?」という議論が巻き起こった。

昨シーズンのヘンリック・ステンソンは年間で1勝も挙げられなかったが、トップ10入りが7回、さらにはプレーオフに突入してから2位、2位、10位と上位入賞を重ね、最終戦では優勝しなくても3位タイ以上なら総合優勝となる状況を迎えた。

年間1勝を挙げた選手より未勝利ながら上位多数のステンソンのほうが評価される存在なのか? メジャー優勝者よりフェデックスカップ総合優勝者のほうが大金を手にすることになるのか? レギュラー大会で3~4勝より、プレーオフで上位数回のほうが効率がいい?

一体、どっちのほうが上なのか? 何が上で、何が下なのか? そんな比較論が方々で持ち上がったりもしたのだが、結局、最終戦を制したジョーダン・スピースが年間5勝と総合優勝に輝き、最後は「それなら順当」とみんなが頷く穏やかなシーズンエンドになった。

昨年、最終戦のツアー選手権を制し10ミリオンを手にしたのはJ・スピースだった〔PHOTO〕gettyimages

今季の話題は「どっちが優先?」

そして今年。今度は「どっちが上か、下か?」ではないが、「どっちを優先するか、しないか?」という選手たちの選択が話題になっている。

そこで登場するのは、またまたステンソンだ。今年の全英オープンでメジャー初優勝を達成し、リオ五輪では銀メダルに輝いたステンソンは、今季のゴルフ界の立役者の1人と言っていい。

だが、昨年12月に手術を受けたステンソンの膝は、五輪を含めた今季の過密スケジュールと続けざまの激しい優勝争いの中で徐々に悪化し、プレーオフに突入したころには悲鳴を上げ始めた。

そのため、第1戦のバークレイズは途中棄権。第2戦のドイツ銀行選手権は4日間を戦ったものの41位に甘んじ、結局、第3戦のBMW選手権は棄権した。それは、その時点でフェデックスカップ上位30位から漏れることを意味し、最終戦進出も10ミリオン獲得も叶わなくなることを意味していた。

リオ五輪の最終日、接戦を演じたH・ステンソン(左)とJ・ローズ〔PHOTO〕gettyimages

それでもステンソンが棄権した背景には事情があった。最終戦の翌週には米欧対抗戦のライダーカップが控えており、ステンソンは欧州チームの主力選手として戦うことが期待されている。そのため彼は、10ミリオンを諦めてでも膝を温存し、ライダーカップに備える道を選んだ。ステンソンにとっては「フェデックスカップよりもライダーカップ」なのだ。

ライダーカップの米国チーム入りを切望していたリッキー・ファウラーにとっても「今年の最大のゴールはライダーカップに出ること」だった。ポイントランキングによる自力出場を目指し、プレーオフ第1戦のバークレイズでは首位で最終日を迎えたが、プレッシャーから崩れ、7位で終了。自力出場がダメならキャプテン推薦を目指そうと第2戦、第3戦でも必死に戦ったのだが、さらなる重圧からさらに崩れ、最終戦進出を逃した。

しかし、逆にその必死さが米国キャプテンのデービス・ラブに評価され、キャプテン推薦でライダーカップ出場が決まったが、その代わり、10ミリオンは幻と化した。それでも笑顔を輝かせたファウラーにとっても「フェデックスカップよりライダーカップ」ということだ。

米チームのメンバーを発表するデービス・ラブ3世(右)〔PHOTO〕gettyimages

同じくキャプテン推薦を受けたマット・クーチャーも、胸の内に占める割合は「フェデックスカップよりライダーカップ」と自ら公言しているほどだ。