2016年プロ野球「広島と日本ハムにあって、巨人と阪神にないもの」
野村克也と宮本慎也が総括 

今季の球界を沸かせたのは、開幕前の下馬評が高くない2チームだ。絶対的な戦力がなくても、勝てるのはなぜなのか。ベストセラー『師弟』の両著者、勝ち方を知る野村克也氏と宮本慎也氏が総括した。

野村祐輔を再生した黒田

宮本 開幕前、セ・リーグは大混戦が予想されていましたが、広島のここまでの独走は、予想していませんでした。

野村 昨年15勝したエースの前田健太がドジャースに移籍したのだから、常識的にはそう思うよ。そんな中、エース級の活躍を見せているのが野村祐輔。苗字がいいよな。

宮本 そうですね(笑)。ここまで14勝3敗(8日現在)。力が抜きん出たチームならともかく、優勝するには、期待以上の活躍をする選手が出てこないと難しいですよね。

野村 今季は投球時のプレートの立ち位置を、今までの三塁側から一塁側に変えている。これによって球の角度が全然、変わってくる。右打者へのシュートは、より食い込むような軌道になるから、打者は嫌だと思うよ。

宮本 「野村再生工場」でも、シュートを覚えさせて復活したピッチャーが何人かいましたね。

野村 ピッチングで困ったときは「外角低めに投げろ」と教えてきたけど、それを生かすためには内角を意識させることが大事。そのために右打者へのシュートはうってつけ。野村はスライダーも投げるから、両サイドをうまく使えるようになったんだろう。

宮本 本人がコメントしていたんですけど、調子が悪いときでも悪いなりに投げられるようにする方法を、黒田博樹から色々と教わったそうです。

野村 長いシーズン、ずっと調子がいいということはないからな。

宮本 勝てるピッチャーと勝てないピッチャーの差は、調子が悪いときにそれなりに投げられるか、悪いままで終わるかの違い。野村は、悪いときにどう投げたらいいかがわかったのだと思います。

中心なき組織は機能しない

野村 いつも「中心なき組織は機能しない」と言っているけど、黒田のような手本になれる選手がいると指導者は楽だよ。余計なことは言わずに「あいつを見習え」と言えばいいから。野手には、新井貴浩もいる。緒方(孝市)監督も中心になる二人がいてくれて相当、助かっているだろうな。

宮本 彼らは常日頃からの野球に対する姿勢、言動が本当にしっかりしている。周囲への好影響は計り知れないです。

野村 黒田はメジャー球団からの20億円のオファーを蹴って広島に戻ったんだろう。すごいよな。俺なら20億円を選ぶよ。

宮本 二人とも勝てなかったときの広島をずっと支えていた。弱いチームは個人主義になってしまいがちですが、黒田も新井もそういう考えは持たずに黙々とやってきた苦労が報われると思います。

野村 セカンドの菊池涼介もいいね。打球が飛んでくる確率の高いところに守っている。スコアラーと一緒になって勉強しているはず。

宮本 今季、外野に定着した4年目の鈴木誠也の成長も目覚ましいです。基本は6番。結果を残しても、簡単にクリーンアップにはしない、というカープの姿勢もいいですよね。守備もよく、走力もある。彼は将来主軸を打ち、30発以上、打てる力がある。トリプルスリーを目標にできる選手だと思います。

野村 昔から広島のスカウトは本当にいい選手を獲ってくる。俺がヤクルトの監督のとき、江藤智や前田智徳が入団してまもなく活躍したけど、彼らはヤクルトのリストには載ってもいなかった。前田なんて、ひと目見ただけで、バッチリのスラッガーだった。

宮本 後半戦から先発に回りましたが、そこまでは勝ちゲームの中継ぎを担ったヘーゲンズ、リーグ2位のホールド数をマークするジャクソン、このセットアッパー二人の存在も大きい。彼らがそろってから、春先は目立った逆転負けが減り、勝ちゲームをきっちり拾えるようになりました。

緒方監督はよく我慢した

野村 バッティングは期待できないけど、守備を重視して今季15年目のベテラン、石原慶幸がマスクをかぶることが多かった。それも独走できた一つの要因じゃないかな。

宮本 昨季は打力のある會澤翼のほうが試合に出ていましたね。

野村 人間はどうしても楽をしたいという本能が働く。監督も得点が欲しいから、打てる選手を優先したくなる。ましてや、緒方監督は外野手出身。守備位置にいてもバッティングのことを考える傾向があるから、監督になってもバッティング重視の選手起用をする。外野手出身の監督は外野の守備位置から野球を見るから、小さなことに気づかない、という固定観念が俺にはあるんだ。

宮本 野村さんは外野手出身の監督に厳しいですけど、今はみなさん、勉強されていると思いますし、広島は過去に作戦面でのコーチを経験されたヘッドコーチの高信二さんが補っている部分もあるかもしれません。

野村 今の監督は非常に難しいと思う。選手もみんな野球をよく知っている。そんな中、選手から信頼を勝ち取るのは大変だよ。昔は選手が監督にゴマをすったけど、今は監督が選手にゴマをすらないといけない。選手に嫌われないようにしないといけない、という意識があるんじゃないの。

宮本 監督には信念というか、頑固さみたいな部分も必要だと思うのですが、今季の緒方監督は我慢強いな、と感じました。開幕からずっと1、2、3番で起用してきた田中広輔、菊池、丸佳浩を信用し切っている。普通はちょっと悪ければ外したり、打順を変えたりするのに、ずっと貫いてきた。特に田中はオールスター明けから1ヵ月弱、不振で、打率も3分近く落ちた。それでも1番から外さなかった。

野村 対照的なのは阪神の金本知憲監督。競争をあおることも必要だけど、打順を変えすぎだよ。

宮本 阪神は今季、「超変革」という旗印のもと、若手を試さなければいけない状況です。実績がない選手をガチッと固定するのは難しいですよね。広島の田中、菊池、丸も昨年までに「ホップ、ステップ」の段階があって、今季がありましたから。

野村 人は習慣的要素を持っている。現役時代、長い間、4番を打っていて、1番、2番が打席に立って「ぼちぼち俺やな」と準備に入る。それをコロコロ変えられると、そういう「備え」の気持ちがどこかに飛んでしまう。だから、阪神のリードオフマンとして牽引してきた鳥谷敬を8番で使ったのもどうかと思うね。

宮本 僕もチームが若返りを図ったとき、首脳陣からなにも言われずにスタメンを外されたことがあります。でも、結果が出ていれば、そうはならない。その時はショックでしたけど、結果を出すしかないと思いました。

野村 選手の気持ちや、性格、心理。そういった「見えないものを見る」のも、監督の大切な仕事なんだ。