週刊現代
大ヒット「超高速!」シリーズの脚本家が唸った、10冊の小説
「この作品がなければ今の自分もない」

2014年にスマッシュヒットを飛ばした「超音速!参勤交代」の脚本家であり、同作で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞した土橋章宏さん。そんな土橋さんが歴史小説を書くに至った高校時代のエピソードから、憧れをもった作家まで、人生で読んだ魅力ある10冊を選んだ。

人生訓は時代小説から教わった

いま私がこうして歴史小説を書いているのは、高校生の頃、司馬遼太郎さんの本に偶然出会ったのがきっかけなんです。

大阪の豊中高校という学校に通っていたのですが、最寄り駅の階段の下に、『花神』の上巻が落ちていた。もちろん司馬遼太郎さんの名前は知っていたので、何の気なしに拾って持ち帰りました。これが読んでみると面白くて、夢中で一気に読み終えてしまった。

すぐ続きが読みたいと、書店に行って下巻を買いました。でも、なんだか話が飛んでいる。実は『花神』には中巻もあって、繋がらないのも当たり前(笑)。いい思い出ですね。

大学生になってからも時代小説を読み漁ったのですが、なかでも『鬼平犯科帳』は好きな作品です。もともと中村吉右衛門の時代劇が好きだったんです。それまで知っていた勧善懲悪の時代劇とは一味も二味も違う、生々しい人間ドラマが魅力的でした。

長谷川平蔵は火付盗賊改方という役人でありながら、綺麗事だけでなく汚い手段を平気で使うこともある。悪役がまたいいんですよ。人間臭い格好良さもあり、一方で隙を見せるところも。

池波正太郎先生は作家でありながら劇作家でもあるので、会話や人間関係の見せ方が巧み。実在の長谷川平蔵という人物を、小説の主人公として力強く描いているところは尊敬しかありません。

あとは、なんと言っても江戸の市井の人々の暮らしの描写が細やかで、読んでいて楽しい。蕎麦の食べ方しかり、江戸文化の「粋」が描かれている。私は街歩きが趣味なのですが、深川などを歩いては池波作品の江戸を思い浮かべています。

さぶ』を読んだのは20代の頃、シナリオライターになるために勉強をしている時です。文章の先生から、「山本周五郎くらい読んでおきなさい」と教えられたんです。

腕の良い職人で才気も腕っ節もある栄二という青年が、盗みの濡れ衣を着せられて人足寄場に移されてしまう。人足寄場の荒くれ者と揉め事になったり、嵐のせいで生き埋めになったり、次々と災難に襲われます。

親友のさぶや想い人のおすえはそんな栄二を支えようとするのですが、自暴自棄になった栄二は自分に優しくしてくれる人を遠ざける。でも、度重なる不幸に襲われるうちに栄二は自分の弱さに気づき、成長していく。

栄二が疑われた事件の謎が終盤で明らかにされていく展開も素晴らしいし、江戸時代の人間を描きながら「不幸が人を成長させる」という普遍的な人生訓を伝えてくれる。時代小説として完璧な一冊だと思います。