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難解な「経済数学」を直観的に理解できるスゴい本が現れた!
経済学部生からのSOSに応えて

現代の経済学は、物理学に基づく高度な数学を取り入れているため、難解なイメージがある。実際、経済学部の学生たちも非常に苦労する。そこへ福音の書が現れた。『経済数学の直観的方法』。理系と文系の狭間を突くユニークなアプローチで、直観的な理解の道が拓けるという。

経済学部からのSOS

筆者がこの本(『経済数学の直観的方法』)を書くに至ったきっかけは、何人かの読者からメールをもらったことから始まる。

それは理系ではなく経済系の読者からのもので、もし経済学部で筆者の前著『物理数学の直観的方法』のような本があれば、どれほど多くの学生が救われるかわからない、という内容のものだった。

そしてさらに詳しい話を聞いて驚いた。

筆者はそれまで経済数学について、基本的にせいぜい高校数学レベルより多少上のもの、という程度の認識をもっていたのだが、最近の経済数学は、一昔前とは次元が違うほどに高度なものとなってしまっているのである。

その中には、理系の物理学科の学生でさえ苦労するようなメソッドも含まれており、量的にも負担が増えているのだが、経済学部ではその数学的準備のための講義の時間が、理系と比べてほとんどとれていないようなのである。

そして上級マクロ経済学の教科書として使われている本にもいくつか目を通してみたのだが、これも本の中に数学部分の説明がほとんどなく、十分な準備のない学生がいきなりこれを読まされて意味が理解できるとは到底思えないものだった。

そのため現実には大半の学生が理解を諦めて、お経のように丸暗記することで乗り切っているのが実情のようである。

そしてカリキュラムもだんだん前倒しになって、大学院で教えていたものがどんどん学部レベルに降りてくる傾向にあるらしく、これでは学生が悲鳴を上げるのも当然だろう。

〔PHOTO〕iStock

「二大難解理論」を先に制覇する

正直、この状況を知るまでは、経済数学の本を書くことにはあまり気乗りがしなかったのである。

物理の数学と経済数学を比べると、確かに物理の数学は経済数学より格段に難しいのだが、その高度な数学の背後には、何か宇宙の神秘が隠されているという感覚があった。そしてそれを学ぶ際には、これを習得すればその秘密に迫れるという期待感が、難しさの苦難を上回っていたのである。

しかし経済数学にはそういう神秘的な期待感がほとんどない。

そもそも経済数学というもの自体が、物理や天体力学の世界で成功した数学技法で使えそうなものを寄せ集めて作られた、という性格をもっており、そのため全体を見ても、雑多で無味乾燥なツールがばらばらに並んでいるだけで、何か明確なストーリーが見えてこないのである。

そのため学ぶ側からすると、そのようにストーリーが見えない状態の中で、一つメソッドを習得しても次には全く別のものが脈絡なしに登場し、量的にもそれらがどんどん増えていくので、この先一体いくつ壁を越えねばならないのか果てが見えず、精神的にも参ってしまうのである。

これは書く側としても気乗りのしない話で、もともと筆者の得意技は、理解の一番大きな障害となっている部分を、盲点から一発で突いて直観的なイメージを描き出すことにある。ところがそのように無数のこまごました小さな障害物が延々と連なっているような場所では、それが十分活かせず、二重の意味でモチベーションが生まれないのである。

ところが状況がそんなことになっているとなれば、話は大きく変わってくる。

つまりそういう巨大な障害物が出現しているなら、それを突破するには筆者の得意技が十二分に活きることになり、そこで身動きがとれなくなっている大勢の経済学徒を一人でも多く救い出すことは、何やら一種の救援ミッションのようで、書き手側の士気も俄然上がろうというものである。

それを念頭に現在の経済学の世界を眺めると、そこには難解さの代名詞となっている厄介な理論が2つある。まず一つはマクロ経済学の「動的マクロ均衡理論」で、もう一つは金融工学の「ブラック・ショールズ理論」であり、これらがいわば「二大難解理論」としてそびえ立っているというのが、現在の経済学の姿である。

そこで本書ではむしろこの状況を逆手にとって、こうした経済学部の障害をまとめて解消する大胆な方法論を試みることにした。

それは、普通の常識的な攻略法とは逆に、むしろ目標をこの「二大難解理論」に絞って、他のこまごましたものを後回しにして先にこれらを一挙に制圧してしまうのである。

つまりそれらを直観的に理解してしまえば、読者はその2トップの頂上から経済数学全体を見渡す格好になり、そうなれば今までのミクロ経済学などのたくさんの数学的メソッドは、ちょうど一番高い山からそれより低い山を見下ろす要領で、精神的に余裕をもって、背後から楽に片づけられるようになるはずだ、というわけである。

当初はこれを1冊の本で行うつもりだったが、分量が増えたため、「マクロ経済学編」「確率統計編」の2冊に分けて、それぞれでこの二大難解理論を一方ずつ扱うことにした。

双方の内容は互いにほぼ独立しているので、どちらか一方だけを知りたいという読者は、無論片方だけを読むこともできる。

ただそういう読者の場合でも、両方を併せて読まれることで、経済数学全体をこの2トップからの視野に収められて、単なる2倍を遥かに上回る絶大な効果を期待できるはずである。