社会保障
いざという時のために知っておきたい「生活保護」
老後の暮らしを守る最後の砦

家があっても受給できる

「まさかねぇ、この歳になって、自分が生活保護を受けるようになるなんて、60歳の頃には思いもしませんでしたよ」

こう話すのは、東京・練馬区で親の代から八百屋を営んできた、高森吉彦さん(71歳・仮名)。現在は廃業しているが、元店舗兼住宅の敷地8坪、築45年の自宅に暮らしている。自動車は持っていないが、食卓の横には小ぶりの液晶テレビもあり、整理整頓された室内は明るく清潔だ。

生活保護を受け取っている人は、資産など一切なく、極貧の状態にあるはず——。そんな一方的なイメージを持っていると、高森さんが生活保護を受け取っているようには見えないだろう。だが、懐事情は非常に厳しかったと高森さんは話す。

「駅前にスーパーができてから、開店休業状態。4年前に店を畳む直前なんかは、毎日赤字が積み重なる状態でしたね。そんなときに女房が乳がんになって……。

一昨年、女房を看取りましたけれども、気がついたら銀行には30万円くらいしかなかった。年金は国民年金だけです。未払いの時期もあって、もらえるのは月4万円程度。電気、ガス、水道払って、おまんま食べたら足が出る。そんな状態でした……」

子供のいなかった高森さん夫婦。親類縁者に面倒を見てくれる人もいない。長年の知人である商店会の元会長が見かねて、渋る高森さんを福祉事務所の生活保護の相談窓口に連れていった。

現在、高森さんは約4万円の国民年金に加え、生活保護として月3万5000円を給付されている。年金額の9割近くを補助されている計算だ。

そもそも「生活保護」とは、厚生労働省が地域ごとに細かく指定している「その場所で暮らすための最低限の生活費」に収入が届かない人に対して、収入との差額を補助する制度。

年金収入があっても、この「最低生活費」に満たなければ受給することができ、無年金などで収入がゼロの場合には、最低生活費の額を全額受給できる。

さらに生活保護を受給していると、上下水道の基本料金はタダ、住民税、固定資産税、NHKの聴取料も免除される。国民健康保険に加入できなくなるため、保険証がなくなるが、代わりに福祉事務所で発行される医療券を提示すると、医療費の自己負担もゼロだ。

自治体によって他にも減免される料金があり、都民ならば、都電・都営地下鉄・都営バスの共通無料パスももらえるため、「こんなにしてもらっていいのかと驚いた」(高森さん)。

長年、掛け金を払ってきた年金に匹敵する金額を受け取ることができ、さまざまな減免措置まで受けられる生活保護。

だが「生活保護」と聞くと、「戦後でもあるまいし、働ける人間が働きもしないで公金をむさぼっている」などと、ネガティブな印象を持っている人も少なくないだろう。

実際には、生活保護の受給世帯約163万5000世帯のうち、半数を超える50・8%は65歳以上の人を中心とする高齢者世帯。うち9割は単身世帯となっている(厚生労働省統計・'16年3月現在)。

「働けるのにサボっている」のではなく、これまで長年、働いてきたが、20年、30年と長い老後を生き抜かなければならない人々が頼りにする制度と言っていいだろう。

では、いざというときこの最後の砦を使うには、どうしたらいいのか。