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「iPhone7」は買いなのか? 携帯大手3社が陥った深刻なジレンマ
海外での評判はイマイチだが…

海外での評判はイマイチ…

米アップル社が今週金曜日(9月16日)に主要国で一斉に主力スマホ「iPhone」の新バージョン「7」を発売するのに合わせて、日本国内ではNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクがそれぞれ「おトク」と称するキャンペーンを展開している。

このiPhone7は、アンドロイド系のスマホでしか使えなかったSuicaを使えるようにするほか、従来のiPhoneには無かった防水機能を付けた端末だ。イヤホンを無線化してイヤホン・ジャックを無くしたり、基本ソフト(OS)のアップグレードといった変更もある。アップル社のティム・クック経営最高責任者(CEO)は発表の席で「過去最高のiPhone」と強調した。

しかし、米全国紙がライバル機の方が依然として防水性能の強靭さや画面の高精細さ、バッテリーの容量(持ち時間)などで高性能と指摘したり、有力調査会社が「(変更は)いずれもマイナーチェンジ。(中国市場では買い手控えて)来年発売予定とされる新iPhone8を待つ人が出るのではないか」と評するなど、本国では醒めた見方が意外に目立つ。

それにもかかわらず、日本の携帯大手3社は、現行のiPhoneなどを下取りすることで実質タダでiPhone7(32GBモデルなどに限定)を入手できる目玉プランなどを打ち出して、顧客の囲い込みに躍起になっている。

いったい、なぜ、日本の携帯大手3社は、必ずしも海外で評価が高いと言えない新型iPhoneに固執するのか。今週は、その内情とそろばん勘定を読み解いてみよう。

Suica機能でシェア拡大

今回発売される新型スマホは、iPhone7(税別価格72800円)と、それよりもディスプレイがひと回り大きく、広角・中望遠の2種類のカメラを備えたiPhone7Plus(同85800円)の2機種がある。ここでは、このうちのベーシックなモデルであるiPhone7について、注目点を紹介していこう。

今、日本の金融、クレジットカード、IT・携帯事業の関係者の間で最も評判になっているのは、iPhone7の日本向け端末に、アップルが米国で2014年に始めたモバイル決済サービス「Apple Pay」が搭載され、10月末からApple PayでJR東日本の「Suica」を利用できる点である。

利用者にとっては、アンドロイド・スマホのユーザーと同様に、スマホさえ持てば、Suicaカードを持たなくても鉄道の乗り降りや売店での買い物をできるようになる。

ちなみに、アップル社のクックCEOはサンフランシスコでiPhone7投入を発表した先週水曜日(現地時間)の記者会見の際に、「Apple Payを世界に広げる」と発言し、その具体例としてSuica対応についても触れた。

米国でとっくに始まっているサービスだけにモバイル担当記者たちはほとんど関心を示さなかったそうだが、資本市場から見ればフィンテック(金融とテクノロジーの融合)は大きな話題だ。

多くの投資家は鵜の目鷹の目で、経済社会にどういう変化がもたらされ、どういう企業が成長の糧として取り込むか関心を払っている。それゆえ、アップルもあえてApple Payの可能性を強調したとみてよいだろう。

やや話はそれるが、Suicaは日本の非接触型ICカードのパイオニアで、他の交通系カード「PASMO」(関東の私鉄)、「ICOCA」(JR西日本)、流通系カード「Edy」(楽天やANAホールディングス)、「nanaco」(セブン&アイ・ホールディングス)、「WAON」(イオン)などと同様、ソニーが開発したICチップ技術FeliCa(NFC Type-F)が技術的なコアとなっている。

が、FeliCaは、海外で普及している代表的な方式(NFC Type-A/B)と比べると、許諾コストが割高だ。業界関係者の間では「端末1機につき数百円程度は高い」と言われている。

加えて、iPhoneは日本のスマホ市場でダントツのシェアを占めているものの、日本市場の規模は米国や中国、インドなどと比べて格段に小さい。

こうしたことから、これまでアップルは、端末にSuicaを始めとした日本市場向けの特別仕様を作ることは採算上好ましくないという立場を採ってきた。ドコモやKDDI、ソフトバンクの要請にもかかわらず、Suicaや「おサイフケータイ」機能の搭載を拒んできた。

だが、日本の状況も変わりつつある。携帯用の基本ソフト(OS)でアップル社の「iOS」と競合関係にある、米グーグル社のOS「アンドロイド」を搭載しているスマホは、早くからSuicaや「おサイフケータイ」に対応し、一定のユーザーの獲得に成功。アンドロイドで使えるものが使えないことが、日本におけるiPhoneの弱点になっていた。

ビットコインに勝てるか

最近の報道によると、グーグル社はフィンテック分野で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と組み、Apple Payと類似のサービス「Android Pay」を近く三菱東京UFJ銀行発行のデビットカードや三菱UFJニコス発行のクレジットカードで使えるようにする方針という。こうした競争の激化がアップルの姿勢転換を促した格好になっている。

一方、JR東日本の冨田哲郎社長は9月8日付のプレスリリースで、「iPhoneでSuicaを利用できるようにすることは、長らくお客さまから求められてきました。日本全国の鉄道・バスや Suica をご利用いただける加盟店において、Apple製品をご利用のお客さまにとって理想的な体験が実現し、多くのお客さまの毎日の生活に不可欠なものになると確信しています」と自信たっぷりのコメントを公表した。

その一方で、関係者の間では、ブロックチェーン(分散型台帳システム)をデータの保存に使うビットコインのような仮想通貨システムが、遠からず、日本でデファクトスタンダードの地位を確立しているFeliCaのような決済システムを呑み込んでしまうとの見方も根強い。

かつて日本で普及していたパソコン通信をインターネットが席巻したようになるのではないか、という見方だ。どちらかといえばビジネス競争とは無縁で、中立的な立場の通信官僚やエコノミストの間にそうした見方が少なくない。

とはいえ、コストが高い半面、FeliCaには、短時間で決済処理が可能という強みがある。JR東日本はかねて、「0.2秒」という高速処理が首都圏の鉄道改札口の朝夕の混雑を予防する強みがあると主張する一方で、鉄道以外の分野への普及にも力を入れてきた。

ビジネスサイドから見れば、JR東日本が主張する強みが本当に武器になり、FeliCaのような日本標準が生き残る道を確保できるかどうかは大きなポイントだ。

これまで「ガラパゴス」と評されてきたモバイル端末と同様に、世界の進化とは一線を画して日本固有の決済サービスが生き残っていけるかどうかで、関係企業の日本での生き残り戦略が大きく違ってくるからである。