ボクシング
現実味を帯びてきた“スーパーファイト” ロマゴンvs.井上尚弥
「ガラスの右拳」をいかに克服するか
ここまで11戦全勝だが、右拳への不安は付きまとう

井上尚弥の試合はいつもヒヤヒヤしながら観ている。

「また拳を傷めるのではないか」

そう心配してしまうのだ。
 
9月4日、神奈川・スカイアリーナ座間、WBO世界スーパーフライ級王座3度目の防衛戦となるペッチバンボーン・キャットジム(タイ=同級1位)戦。相手はトップコンデンターであるとはいえ、力量では、井上が圧倒的に上位であると思えた。それでも、もし試合中に井上が拳を傷めたなら、との不安がつきまとった。

ガラスの右拳

振り返れば、井上は幾度となく拳を傷めている。

2010年10月2日のデビュー戦では、リングにあがる10日前に右拳を負傷する。それでも左ボディを駆使し、フィリピンのクリソン・オマヤオに4ラウンドKO勝ちを収めた。

プロ3戦目の日本ライトフライ級1位・佐野友樹(松田)戦でも苦戦を強いられた。3ラウンド途中に右拳を傷め、それ以降、左のみでの攻撃を余儀なくされる、それでも最終10ラウンドにTKOで勝った。

世界王座2階級制覇を果たした14年12月30日、東京体育館でのオマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦は2ラウンドKOの圧勝だった。だが、この時も右拳に多大なダメージを残してしまい、その後、復帰までに1年間もの時間を要することになる。

そして、今年5月8日、WBO世界スーパーフライ級の2度目の防衛戦、デビッド・カルモナ(メキシコ)戦でも左腕一本の闘いを強いられてしまった。それでもダウンを奪い大差の判定勝ちでベルトは守った。

さて、今回のペッチバンボーン戦でも案の定、井上は右拳を傷めてしまう。

試合中盤から極端に右のパンチを放たなくなった。多くの関係者は、試合中に井上の異変に気づいていたことだろう。ただ、井上の凄いところは、それでも10ラウンドにKOを狙って右拳をペッチバンボーンの顔面に見舞っていたことだ。

前回のカルモナ戦はダウンを奪ったとはいえ判定勝利に終わっている。連続しての判定試合は避けたい。地元・座間でインパクトのある勝ち方をしたいとの想いが井上には強かったのだろう。加えて、試合前から腰を傷めていたハンディもあった。それでも、井上は座間のリングで前に出た。

結果、井上は意地の10ラウンドKO勝利を収めた。

世界が認めるモンスターへ

「ロマゴン(ローマン・ゴンサレス=ニカラグア)と来年、(井上が)対戦できるように交渉に入ります」

大橋ジムの大橋秀行会長は試合後にメディアの前で、そう名言した。

いよいよ、夢のカード、ローマン・ゴンサレスvs.井上尚弥が現実味を帯びてきている。

“パウンド・フォー・パウンド最強”と称されるロマゴンは、今月10日(日本時間11日)に階級をフライ級から一つ上げてWBC世界スーパーフライ級王座に挑戦した。結果は王者カルロス・クアドラス(メキシコ)に判定勝ち。これでロマゴンと井上は同じ階級の王者となった。王座統一戦を望む声は日増しに大きくなることだろう。

今年の12月に、WBA世界スーパーフライ級王者ルイス・コンセプシオン(パナマ=8月31日に河野公平からタイトル奪取)と王座統一戦。来年春に、ロマゴンと同じ舞台で闘い、米国デビュー。そして来年秋にロマゴンとの頂上対決というのが井上陣営が描くプランだ。

ロマゴンは難攻不落の強者である。それでも井上は、この厚き壁を砕く可能性を秘めている。2年前のオマール・ナルバレス戦の時のような序盤からペースを握る闘いができたならば、井上のロマゴン超えも可能だろう。

ただ、気になるのは井上のガラスの右拳。これをいかに克服するかが、今後の大きなテーマ。ロマゴンに勝利した時、井上尚弥は、世界が認める本物の怪物(モンスター)になる。

近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌を はじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自 転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイ シー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れ る!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊 は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。
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