日本ボクシング界最大の危機!? ジムと運営組織が「全面戦争」へ
歩み寄りの努力虚しく…

『現代ビジネス』が追及してきた日本ボクシング界の内紛。選手の健康管理のために使われるはずだった資金が激減していることで、ジム側が運営組織に不信感を抱いたのがこの問題の発端だが、ついに運営組織とジムの「決裂」が決定的となるかもしれない――。

9月7日、後楽園ホールビル6階の日本プロボクシングコミッション(以下・JBC)本部は緊迫した空気が漂っていた。この日開かれたのは、JBCと日本プロボクシング協会(以下・協会)の連絡協議会。JBCの浦谷信彰統括本部長は、協会の渡辺均会長が示した書面を確認すると一気に顔をこわばらせた。JBCへの痛烈な批判が入り混じり、対決姿勢がその書面からはにじみ出ていた。

要点は次の3点である。

・JBC健康管理見舞金の共同調査委員会の立ち上げ
・安河内氏の復帰等、JBCの人事。浦谷統括本部長の辞任も含めた重要な人事問題の討議
・協会側が推薦する理事の増員

「まるで宣戦布告だ」

この書面を読んだJBCの関係者はこうつぶやいた。なぜならこの3つの要求は8月23日に行われたJBCの「緊急理事会」の決定を全否定する内容だったからだ。これが実行に移されれば、これまで懸命に責任回避に奔走してきたJBCの秋山弘志理事長や浦谷統括本部長の責任が明白となってしまう。

この2人にとっては決して譲れない一線。渡辺会長はこれをあっさりと踏み越えたのだ。協会トップが突き付けた宣戦布告―。プロボクシング界の内紛がついにJBCと協会の全面戦争に発展した瞬間だった。

一触即発

プロボクシング界は現在、JBCの資産や健康管理金(健保金)をめぐって3年に及ぶ緊張状態が続いている。協会の元副会長で、緑ボクシングジムの会長である松尾敏郎氏が発足させた「ボクサーの権利を守る会」は、JBCの業務執行上の責任者である秋山、浦谷両氏を刑事告発する姿勢を貫いている。

対するJBCは「ボクサーの権利を守る会」が刑事告発に至った場合、松尾会長を初め選手代表として名を連ねている日本ヘビー級ランカーの竹原真敬選手、小出大貴選手らのライセンス停止をちらつかせる。刑事告発には賛同していない協会の重鎮たちの中にも、こうしたJBCの高圧的な姿勢に反発し、「試合承認料を協会預かりとして、JBCを兵糧攻めにする」という強硬論が飛び出す始末。事態は一触即発の状態だった。

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もともと渡辺協会長は穏健派の一人だった。同氏が強硬姿勢に転じたのは、前述した8月23日に行われたJBC緊急理事会がきっかけだ。

緊急理事会は協会傘下で、各地区の協会を代表する5人の会長や副会長らが、事態収拾のためにJBCに要請して開催された。5人のメンバーには協栄ボクシングジムの金平桂一郎会長や、元ストロー級世界チャンピオンで西日本ボクシング協会の井岡弘樹会長などボクシング界の著名人らに加え、協会会長である渡辺氏も東日本ボクシング協会会長の名義で名を連ねていた。実質的に全国のボクシングジムを統制している重鎮たちの総意として要求されたものだったが、JBC理事会は重鎮たちが提案した議案の全てを否決したのだ。

自身もオブザーバーとして緊急理事会に出席した渡辺会長は、目の前で提案が次々に否決されていく様に衝撃を受け、ガックリと肩を落とした。

「歩み寄りを期待していた私としては、今後、協会内のガバナンスも含めてどう対応すればいいのか、頭がパニックになっている」

緊急理事会後、渡辺氏は筆者にこう漏らしたのだった。また「ボクサーの権利を守る会」の松尾会長は、筆者の取材にこう憤慨した。

「渡辺会長は事態を収拾する手段として、JBCの緊急理事会開催の要請に名を連ねたのです。と言うのは、試合を統括しライセンスの承認権という強大な権力を持つJBCに逆らうことは、ジムや選手にとっては試合ができなくなることだってあり得る死活問題。それだけに協会内ではJBCへの強硬派と穏健派の対立が激しくなりつつあった。

協会の統制を乱せば、逆に協会分裂の危機に至るのは必定。渡辺会長としては要請に名を連ねるのは、協会の秩序維持のための苦渋の決断だったのです」