学校・教育
空白地帯に旗を立てよ!「100万人に1人」の人材になる3ステップ
正解なき時代を生き抜くために

取材・文/古賀史健

中二病の全能感を肯定しようーー。「正解が失われた成熟社会」を生き抜く術を教育のプロが語り合う。

エンジェル投資家として活動しながら、京都大学客員准教授として教鞭をとり、『僕は君たちに武器を配りたい』などのベストセラー作家としても知られる瀧本哲史さん。

そんな彼が、次世代を担う14歳のために書き下ろした『ミライの授業』の刊行を記念して、特別対談が実現した。

対談相手は「以前から瀧本さんの著書に親近感を抱いていた」という、奈良市立一条高校の藤原和博校長。元リクルート、トップ営業マンという輝かしい実績をひっさげ、東京都の公立中学校(杉並区立和田中学校)で初の民間校長として活躍し、現職に至る教育界の改革者だ。

日本の「ミライ」を模索するふたりの、熱いトークをお届けする。

「中二病の全能感を肯定してあげよう」奈良市立一条高校の校長室にて、2人の対談が始まったーー。

ガンバレ中二病!

藤原和博(以下、藤原) ぼくは昔から瀧本さんの本はたくさん読んでいて、自分と重なる部分をたくさん感じていたし、とても他人とは思えないところがあって(笑)。ひとりの読者としても、一度お会いしてみたかったんです。

これまでの本もおもしろかったけど、とくに今回の、偉人伝をベースにした『ミライの授業』は、お見事としか言いようがない。だから、率直に聞かせてください。どうしてこういう本をつくろうと思ったわけ?

瀧本哲史(以下、瀧本) まず、私が大学で教鞭を執るようになって7年くらい経つのですが、大学生がだんだんおとなしくなってきたな、という印象がありました。

藤原 わかる。

瀧本 いま、日本は変革の時を迎えています。古い時代からあたらしい時代へ、大きく変わろうとしている。そこにあって、保守化してしまった40代や50代に変革を訴えても、おそらく手遅れでしょう。

もっと若い世代にメッセージを投げかけ、若い世代からパラダイムシフト (これまで常識にとらわれない新しい発想や価値を創造すること) を起こしていくしかない。この問題意識は昔から変わりません。

ところが、最近では大学生までもが保守的になってきた。彼ら20歳前後の学生でさえ、もはや手遅れなのかもしれない。じゃあ、どのタイミングだったら間に合うのか。どんな人たちに訴えれば、変革の旗が立つのか。

人生でいちばん最初に自我が芽生え、「自分の進むべき道」を意識するタイミングはどこか。自分自身の記憶も踏まえ、おそらく中学生だろう、と結論づけました。

藤原 うん。ぼくは、まさに15歳前後の数年間を「子どもの終わり、大人のはじまり」と位置づけています。瀧本さんのおっしゃるタイミングで無邪気な「子ども時代」が終わって、「大人としての人生」がはじまる。

瀧本 中学生は多感な時期で、不安もたくさん抱えている一方、自我が大きく膨らんで全能感に包まれる時期でもあります。「中二病」という言葉があるように。そんな彼らに変革のメッセージを送ることができれば、大胆な一歩を踏み出してくれるのではないか、自分だけの旗を立ててくれるのではないか。そんな仮説を立てました。

藤原 彼らの全能感を、肯定してあげる。

瀧本 はい。大人たちは「なに夢みたいなこと言ってるんだ!」とか「もっと真面目に考えろ!」と彼らの妄想にも似た全能感を潰しにかかるのですが、あの猛烈なパワーを否定するのは間違っている。

むしろあのパワーを利用して、次のステップに踏み出させなきゃいけない。この思いは、『ミライの授業』のために実際に全国の中学校をまわるなかで、ほとんど確信に変わりました。

「ガールズ・ビー・アンビシャス!」女子生徒に瀧本氏を紹介する藤原氏

ガールズ・ビー・アンビシャス!

藤原 なにかきっかけがあったわけ?

瀧本 この企画が動きはじめた最初の段階で、講談社にいろんな中学校から中学生を集めて、簡単な模擬授業をおこなったんです。それで無事に授業が終わって帰ろうとしたら、いかにも図書委員という感じの、おとなしそうな女子生徒に呼び止められました。

すると、興奮しているんですよ。「今日の授業を聞いて、わたしもいっちょやったろ! なにか大きなことに踏み出そうと思いました!」と、熱っぽく語ってくれるんですね。そのときに「ガールズ・ビー・アンビシャス」という、本書の裏テーマが浮かびました。

藤原 ガールズ・ビー・アンビシャス。なるほど、「少女よ、大志を抱け」と。

瀧本 そうなんです。私が主催者のひとりとして関わっている「ディベート甲子園」という中高生のディベート大会でも、中学生までは女子生徒が圧倒的に強いのに、高校生になると男子生徒ばかりが上位に名を連ねるようになる。あんなに強かった女子生徒が、おとなしくなっていく。

おそらく、男子以上に社会からの抑圧が働いて、野心や向上心が削がれていくのでしょう。これは社会全体の損失でもありますし、いますぐにでも取り払わなければならない心の壁、社会の壁です。その意味もあって、「あの女子中学生に向けて書こう」と決めました。

藤原 それは象徴的なエピソードだね。瀧本さんが本を書くときには、いつも特定の読者を思い浮かべるんですか?

瀧本 ええ、すべて特定のペルソナに向けて書いています。たとえば『僕は君たちに武器を配りたい』は早稲田大学にいた女子学生。『武器としての決断思考』は知人の弁護士、というように。中途半端なターゲティングではなく、特定の個人に向けて書くからこそ、より多くの読者に届くと信じています。

藤原 その考え方は、とても正しいと思う。ぼくも教育活動の傍ら「ビジネス×教育×人生」をテーマに、延べ20万人以上、累計1000回を超える講演活動を続けてきたけど、やっぱりある程度の年齢になった男は、なかなか人生観を変えられない。

セミナーに参加して「いい話だな」と思っても、自分の人生観を変えるまでには至らない。もちろん不可能ではないんだけど、かなりむずかしい。その厳しさには、日々直面しています。

それに比べると、女性は「変化の天才」ですよ。たとえば、結婚や出産といったライフイベントでも、ガラッと人生観を変えられる。相手の色に染まるんじゃなくって、自分の意思で変えていける。

「社会を変えるために、中学生にアプローチする。なかでも、女子生徒に向けて書く。しかも顔が見える、特定の女子中学生に向けて書く」。これは、とても正しい戦略だと思いますね。

瀧本 ですから、当初は黒澤明監督とか藤原さんのご出身でもあるリクルートの江副浩正さんとか、男くさい男をもっと紹介しようと思っていたのですが、男女のバランスをほぼ同等にしました。

しかも、ナイチンゲールのような誰もが知る女性から、ベアテ・シロタ・ゴードンという知る人ぞ知る女性、そして日本人の緒方貞子さんまで織り交ぜながら。

藤原 そう、歴史上の偉人ばかりではなく、同時代に生きている変革者たちもしっかり採り上げているでしょう。だから説教くさくないし、説得力があるんだよね。