金融・投資・マーケット
欧州中央銀行ドラギ総裁「意味深発言」の裏を読む
市場を失望させたが、それでいいのか?

9月8日、金融市場の多くの参加者の間では、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の延長を打ち出すとの見方が強かった。7月の理事会で、ドラギ総裁が景気下振れリスクの上昇と追加緩和策の発動に含みを持たせていただけに、金融市場の期待はかなり高かった。

しかし、ドラギECB総裁は金融政策の現状維持を決めた。その決定は市場の失望を誘い、欧州を中心に主要国の金利は上昇売る一方、ユーロの為替レートは8月下旬の水準まで反発した。

今回の措置は、徐々にECBの金融政策が限界に直面しつつあることを示している、と見るべきだろう。ドラギ総裁も、そうしたシグナルを示し始めたとも考えられる。今後、ユーロ圏の経済政策(金融+財政政策)がどのように運営されるか、注意深く見る必要がありそうだ。

二つの意味深な発言

足元のユーロ圏経済を見渡すと、目立った変化があるわけではない。確かに、イタリアなどの銀行の不良債権処理への不安、英国のEU離脱による先行きの景気減速への懸念はある。

しかし、今のところ、そうしたリスクが顕在化しているわけではない。それを考えると、ECBの理事会で金融政策の現状維持が決められたことは妥当な判断だろう。

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ここで本当に考えるべきポイントは、一段の金融緩和が経済に有効に作用するか否かだ。記者会見でのドラギ総裁の発言を注意深く見ると、同総裁の深い思料がにじみ出ている。特徴的な発言として、「QE延長は議論しなかった」「現行の金融政策の遂行に集中する」という二つの点だ。

記者会見では、量的緩和の強化に対する質問が相次いだ。「現在は買い入れられていない銀行の債券や、株式を買い入れる考えはないか」との質問もあった。

これに対してドラギ総裁は「議論しなかった」と憶測の余地すら与えなかった。総裁の脳裏には、金融緩和の余地が小さくなり、マイナス金利の深掘りなどが銀行の収益悪化などを通して、経済にマイナスの影響を与えるとの危惧があるのだろう。

金融市場は、この発言を「ECBには追加緩和の意思がない」と受け止めた。それが独国債などの失望売りを呼び、ユーロの買戻しにつながった。9日も世界の債券市場は大きく売られ、市場の落胆は大きかった。こうした期待未満の中央銀行の回答が、予期せぬ金利上昇につながりやすくなっている。

「ドラギマジック」はどこまで続くか

記者会見の場で、ドラギ総裁は財政政策にも言及し、「財政支出の余地がある国は使うべきだ」「ドイツには財政出動の余地がある」と、ユーロ圏各国に対して明確に財政出動を要請した。これは、更なる景気回復のためには、金融政策だけで対応することは困難だとの考えの現れだ。

従来、ドラギ総裁は市場の期待を巧みにコントロールし、金融政策の効果を高めてきた。これを市場は“ドラギマジック”と評した。

今回の理事会を見る限り、総裁は市場に配慮しつつも、期待をつなぎとめようとするメッセージは出さなかった。むしろ総裁は、「低金利が経済に悪影響を及ぼす」と批判を繰り返してきたショイブレ財相、バイトマン独連銀総裁らドイツ陣営に、「更なる金融緩和は難しい」との返答を送ったとも言える。

確かに、過度な金融緩和は、カネ余りに支えられた株式バブルの発生など、経済を不安定化させる恐れがある。一方、南欧諸国の財政状況を考えると、財政政策を用いて景気回復を支えることが容易ではないことも確かだ。特にドイツは各国に対して緊縮財政を呼びかけてきた。その結果、各国がドイツに対する批判姿勢を強めEUからの離反を志向しつつあることは確かだ。

一連のドラギ総裁の発言を見る限り、ECBがさらに強力な金融緩和に踏み込むか、判断は難しい。少なくとも、市場が期待するほどの緩和措置が打ち出されるかは冷静に見ていくべきだ。

今後は財政政策が中心となって景気回復を支えるべき、というのがECBの本音だろう。それだけに、金融緩和を批判し緊縮を重視したドイツの姿勢に変化が現れるかが、当面のユーロ圏経済の動向を考えるポイントだ。