ドイツ EU 難民政策
見限られるメルケル首相 ~台頭する「右派新党」に歴史的敗北
ドイツの民主主義は袋小路に!?

歴史的な敗北

中国の杭州でG20サミットが始まった日の夜中、メルケル首相を悪夢のようなニュースが襲った。9月4日、メクレンブルク=フォーポマーン州の州議会選挙で、彼女の党CDU(キリスト教民主同盟)が歴史的な敗北を喫したのだ。

メクレンブルク=フォーポマーン州は、旧東独の、バルト海に面したメルヒェンのように美しい地方だ。メルケル首相の選挙区でもあるが、小さい州なので、普段ならたいして注目もされない。

ところが今回は違った。この選挙には、最近落ち続けているメルケル首相の人気を見極め、かつ、来年の総選挙の動向を探るという二つな重要な意味があったからだ。

現在、メクレンブルク=フォーポマーンの州政府は、SPD(社民党)とCDUの大連立だが、今回の選挙では、両党がともに大きく得票率を減らした。

代わりに急伸したのが、2013年に結成された右派の新党、AfD(ドイツの選択肢)だ。それも、AfDが CDUを超えて第2党に躍り出たのだから、メルケル首相にとって大きな衝撃であったことは間違いない(第1党はSPDのまま)。

翌5日、彼女は杭州からドイツに向かって異例の特別声明を発した。

AfDに投票した人が前回どこに投票していたかを調べたところ、一番多い答えが、「前回は投票していない」というものだったという。しかも、支持者は労働者層が多い。

つまりAfDは、前回は選挙に行かなかった低賃金で、おそらく低学歴の労働者層の心をつかむことに成功したと言えるだろう。確かに、投票率が61.6%と、前回の51.5%に比べてかなり高くなっている。

しかし、もちろんAfDの支持者が、低賃金で低学歴の労働者ばかりというわけではない。2番目に多いのが、CDU畑から乗り換えた人たちなのだ。

CDUというと、その支持者は低賃金でも低学歴でもない。保守で、しかも中間層以上。彼らがCDUに愛想を尽かしたのだから、それこそ党の庇が傾く一大事である。

メクレンブルク=フォーポマーン州で大躍進したAfDの党首フラウケ・ペトリー氏〔PHOTO〕gettyimages

民主主義の危機?

今回のCDU離れの最大の原因が、メルケル首相の難民政策であったことは確実だ。

去年、メルケル首相が難民を無制限に受け入れると決断したとき、ドイツ国民はそれを人道的であるとして絶賛した。メディアも、「難民はドイツにとってのチャンスである」と宣伝し、その傍らでは産業界が、転がり込んでくるかもしれない安い労働力に、熱いまなざしを注いでいた。

しかし、当初からEUの国々は、ドイツのしていることを信じられないという思いで見つめていた。そのうちメルケル首相が、増えすぎた難民をEU諸国で分担しようと言い出すと、皆、一斉に抵抗した。

ドイツは次第にEU内で孤立し、そのうちEU各国も、ドイツが呼び込む難民の波から自国を守ろうと、国境を閉じ始めた。

2015年、ドイツに入った難民が110万人を超えた。焦った政府が採った対策は、どれもうまくいかず、かつての人道的政策は、次第に、メルケル首相の類まれなミスリードと評価を変え始めた。

そのうち、テロやら、難民の男性による集団婦女暴行事件(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47293)やらが起こり、国民の難民フィーバーも水をかけたように冷めた。国民の間に、不満がじわじわと広がっていった。しかし、その頃になっても、海の向こうでは、おっちょこちょいの日本メディアが、まだドイツの人道を盛んに褒め続けていた。

そんな中、最初からぶれずに、難民の受け入れ制限や、イスラム化による弊害を訴えていたのがAfDだった。

メディアは最初、AfDのことを「極右政党」と呼んだ。今ではそれが「右派ポピュリスト」に変わったが、この党が、平和を破壊しようと企む暗黒集団のように、常に否定的に報道されることに変わりはない。曰くAfDは、「反移民」、「反イスラム」で国民を扇動し、民主主義を脅かす危険な党なのである(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/48596)。

9月4日の夜の選挙速報は奇妙だった。すべてのアナウンサーや批評家が、AfDの躍進を、喪に服したような顔つきで報じた。「みなさん、大変なことが起こりました。とても嫌だけど、でも、事実だから言います」という感じだ。

解説者が言った。「もう無視するわけにはいかない。しかし、妥協するわけにもいかない」と。これからの課題は、AfDのせいで袋小路に陥ってしまった民主主義を、どうやって取り戻すかということなのだそうだ。

とにかく終始一貫、「メクレンブルク=フォーポマーン州に悪霊がとりつきました」というニュースを聞いているような気分だった。

メルケル首相はなぜか強気

AfDはドイツの法律により、正式に認められている政党だ。メクレンブルク=フォーポマーン州では、5人に1人がAfDに投票した。全国的に見ても、ここ2年で、すでに他の8つの州議会で議席を得ている。

それを、国営テレビ放送が2局とも、民主主義を食い散らす害虫のように論じているわけだ。

思えば、今年6月にイギリスが国民投票でBrexitを決めたときも、同じようなことがあった(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/49054)。ドイツの報道はほとんど、「イギリスはポピュリストたちの手に落ちた」、「民主主義がなくなる」、「Brexitの意味も知らずにそれに投票した哀れなイギリス国民」etc。

なのに今では、そんなことはすっかり忘れたように、Brexitの被害はイギリスよりもEUの方が大きいかもしれない、などと言っている。

さて、9月18日、こんどはドイツの首都、ベルリン市で議会選挙がある(ベルリン市は特別市なので州扱い)。今、政府内にも野党にも、速やかに難民政策を修正しなければならないという危機感が強い。このままでは、ベルリンの選挙はもちろん、来年の総選挙でも、さらにAfDが伸びる可能性があるからだ。

ところが5日、杭州からの声明で、メルケル首相はCDUの採った難民政策は正しかったと主張した。7日は、ベルリンで国会討論が行われたが、そこでも中国から帰国した彼女は、自らの難民政策の正当性を徹底的にダメ押しした。

つまり、なぜかメルケル首相だけが強気で、難民政策の修正など、どこ吹く風なのである。難民政策がどう転ぼうが、来年の総選挙で自分以外に首相候補はいないと踏んでいるのかもしれない。

たしかにCDUには、メルケルに代わって党首となる人材がいない。かつてはカウンターパートであったSPDも、州レベルでは依然強いが、国政レベルでは弱体化しており、与党となるには、再びCDUと大連立を組む以外に方法はない。

つまり、メルケル首相を引きずり下ろしては、どちらも損をする。袋小路に陥っているのは民主主義ではなく、かつての国民政党CDUとSPDだ。

〔PHOTO〕gettyimages

さて、4日のメクレンブルク=フォーポマーン州でのAfDの勝利以来、現在白熱しているベルリンの選挙戦で面白い現象が起こっている。各党がこぞって、AfD攻撃を始めたのだ。

民主主義を守るためにはAfDを台頭させてはならないと、AfD以外の党が皆で口裏を合わせたように叫んでいる。

こういう現象も、他人のふんどしで相撲を取ると言うのかどうかわからないが、ここまで“AfDは民主主義の敵”と吹き込まれると、なんとなくプロパガンダっぽく感じるのは、私の民主主義度が足りないせいだろうか???