築地市場は一刻も早く移転せよ! 都民のことを思うなら答えは一つだ
小池都知事にとってもそのほうがいい

小池都知事の言ってることはどこまで正しいか

なにかと注目を集めている小池都知事は、8月31日、「11月7日に予定されております、築地市場の豊洲新市場への移転については、延期といたします」と述べた。

延期の理由として、「都民ファースト」の視点から、安全性についての懸念、巨額かつ不透明な費用の増加、情報公開の不足という、3つの疑問点が解消されていないことを挙げている。

空から見た築地市場〔PHOTO〕gettyimages

この問題は連日テレビのワイドショーなどで取り上げられ、話題になっている。先日、ある人からも「豊洲への移転は心配だ」といわれた。安全性にかかわる話なんでしょ、ということだった。

心配はもっともだ。それに、コスト高になっていくのが一部の利権が原因とすれば当然腹が立つ。しかしながら、移転の延期や凍結、中止という議論は別である。

要するに移転がらみのきな臭い話はまったく腹立つのだが、同時に今の築地は開場後80年が経っており、耐震、安全、衛生面で実用的ではない状態なので早く移転すべきなのだ。このことは、テレビ番組(9月3日朝日放送「正義のミカタ」)でも主張した。

築地市場は古すぎるので、安全基準を十分に満たしていないうえ、きれいとは言いがたい。アスベストの問題も残っている。築地市場と豊洲市場を比較すれば豊洲市場の方が安全できれいなのである。

テレビ番組では、印象付けるような表現も必要なので、例として「水爆で被爆した第五福竜丸が築地市場に持ち込んだ汚染マグロが、築地市場に埋められている」という話をした。築地市場に行った人なら碑があったから知っているはずである。

この話は最近話題になっているゴジラに関するネタでもある。第五福竜丸事件は、1954年に発生しており、ゴジラの第一作はこの事件が契機になったものだ。

〔PHOTO〕gettyimages

正直に言えば、汚染マグロの話は62年前のことであるので、問題ないとも言えるが、食の安全に関心のある人は、放射能にも関心があることが多いので、この種の人には奇妙に効果があるので、筆者として気に入っている。

「サンク・コスト」理論で考えればいい

まず、築地市場はどういうものか。

東京都には、現在11の中央卸売市場がある。おばあちゃんの原宿として知られる巣鴨の近くにも豊島市場がある。小池都知事の地元なので、よくご存じのはずだ。

11市場のうち築地市場は1935年開場の最古参である。同年には、築地市場のほか、神田市場と江東市場も開場されたが、両市場はすでに廃止、他市場へ移管されている。

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そもそも論として、ある事業について、中止するのがいいのか、継続するのがいいのかを意思決定する際、経済学の「サンク・コスト」概念が役に立つ。投下した資本のうち、事業の撤退や縮小を行っても回収できない費用のことをサンク・コスト(sunk cost=埋没費用)という。

それまでにどれだけコストをかけたかを気にしても仕方ない。その後にかけるコストと得られる便益を対比させ、その後のコストが大きければ中止、便益が大きければ継続となる。

なお、コストが大きくなった場合に、その原因を追及し、不正があればただすのは言うまでもないが、中断か継続かの意思決定には関係ないというまでだ。

八ッ場ダムのケースと比較すれば分かる

サンク・コスト論を、民主党政権時代に話題になった八ッ場ダムに適用してみよう。この例は、拙著日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える(光文社新書、2010年5月)に書かれている。

八ッ場ダムの場合、最初の計画では2100億円をかけて6000億円の便益があるという数字が出されていた。

しかし、結果として必要な費用は4600億円に修正され、すでに3400億円ほどが使われている。この残りの1200億円をかければ6000億円の便益が得られるというのが正しいとすると、中止すべきではないと判断せざるを得なかったのである(やはり、筆者の予想通りに、2013年5月、八ツ場ダムの本体着工が再開されている)。

八ッ場ダムについて、民主党の政権交代時に、継続すべきであることはわかっていたが、民主党はマニフェストで中止を表明してしまった。最終的には工事を再開せざるを得なくなり、民主党の政策遂行能力に大きな疑問符が生じたものだ。

このサンク・コストを築地移転に適用してみよう。

都議会に提出された資料によれば、豊洲市場の整備費(コスト)は、3926億円(2011年2月)、4500億円(2013年1月)、5884億円(2015年3月)と、時を追うごとに膨らんでいる。その内訳を見ると、建設費は990億円→1532億円→2752億円、土壌汚染対策費は586億円→672億円→849億円である(時点は前の通り)。

もっとも、今の時点で豊洲市場はほぼ完成しているので、これ以上、コストをかける必要はない。その便益は、もし発がん物質が出て対処できないのでなければ、一定の安全基準を満たせば、プラスであることは間違いない。なにか出てきても安全面で問題なくすることは今の技術で可能である。

ということは、今の段階で中止はあり得ないわけだ。これはわざわざサンク・コスト論を使わなくても、常識でもわかる話だ。

もし、築地市場のほうが豊洲市場よりも安全できれいなら、これまでの投資をあきらめ、まさにサンク・コストにして中止するという判断も経済的にはあり得る。

しかし、かつて石原慎太郎・都知事が明言したように、「築地は古くて清潔でない」のだ。

さらに、築地市場にはアスベストの問題も残されている。この種の情報公開は、かなり徹底されて実施されている(たとえばこちら)。

そうであるから、築地市場については、20年も前から、立て直すか、移転せよとの結論が出されているのであり、政治的には2001年に豊洲への移転が決定されている。

まっとうな議論を曲げた民主党

こうしたまっとうな動きが曲げられたのは、2009年7月の都議選で豊洲移転に反対の民主党が都議会第一党になったからだ。ちょうど国政で民主党政権になって、八ッ場ダムを中止という動きとまったく呼応している。

もっとも、2012年には民主党もさすがに賛成に転じている。この段階で、豊洲移転に反対なのは共産党だけだった。

こうした政治的な経緯を知っているだけで、築地移転を政治問題化するのは気が引けるだろう。まして、経済的には移転中止は全く考えられないものなのだから。

筆者としては、経済的に全く解のない話を、どうして政治問題化したのかが、気にかかる。まあ、政治勘の鋭い小池都知事なので、選挙中は、いったん立ち止まるということしかいっていないが、ちょっと立ち止まるのが今回の「延期」の政治的な意味なのだろう。

なお、今回の「延期」の前に、元日弁連会長の宇都宮健児氏と小池都知事が会ったのはちょっと合点がいかなった。宇都宮氏は共産党と同じく移転反対である。その人の意見を聞くとなると、中止を視野にした延長と受け止められる。これでいいのだろうか。

11月からの開場延期では、1日のコストは700万円という。1ヵ月で2億円なので、半年延ばすと10億円以上となって、使い勝手のよくなるように豊洲市場で改造をしたとしても、民主主義コストでは説明がつらくなる。

いずれにしても、豊洲移転の凍結や中止はあり得ないので、小池都知事は早く移転を決めざるを得ないだろう。

水質調査がまだだというが、これまでに何回も実施されている。おそらく移転するという決断を出すのための材料になるのだろう。小池都知事も、来年1月上旬に水質調査が出てから判断するとしており、そこで移転を決断すれば、民主主義コストは4億円程度となる。まあ、ギリギリだろう。

小池都政の「真実」が見えるとき

そうなると、マスコミは手のひらを返して、小池批判にまわるのではないか。そのとき、小池都知事はどのような手を打つのか。

マスコミに移転の合理性を説明するのはそれほど難しくない。その際、予算をしれっと通すこともある。いずれにしても、そのタイミングだと、都予算をどうするのか、一つのポイントである。

かつて橋下徹大阪府知事は、当時の府予算を暫定予算として全面的な予算組み替えに挑戦した。さすがに、そのときはびっくり仰天で、マスコミの関心を一気に引き寄せた。その予算攻防が、結果として大阪維新の政治パワーになっていた。

もし小池都知事が似たような手法をとり、予算で都議会で対峙するなら、来年の都議会選挙の前に、小池新党構想が浮かび上がる。

都予算で勝負するのは、あまりに正攻法であり、準備には半年ほど必要である。さらに、都庁職員のマンパワーを集中するために人的把握も必要であり、政治的にも相当な力勝負である。

果たして、小池都知事がそこまでやるのかどうか。今回の築地移転問題の後に、小池都政の真実が見えてくるだろう。