黒船ネットフリックス、急拡大戦略の裏にある「焦り」と「弱点」
決算書で読む動画ビジネスの今

売上高は右肩上がりも、営業利益は微減

昨年9月に日本に上陸し、又吉直樹作のベストセラー『火花』のオリジナルドラマをフジテレビと組んで配信するなど話題を振りまいている、米国動画配信サービスの巨星・ネットフリックス。

100億円ともいわれる予算を投入して制作したオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などの強力なコンテンツを武器に快進撃を続け、今年1月には一挙に利用可能国が130ヵ国も増加。「ネットコンテンツ界の巨星」の名をほしいままにし、テレビをはじめとする既存のメディアを脅かす存在として注目を集めている。

だが、同社の決算書を読み解いていくと、思わぬ「弱点」が見えてくるのだ。

ネットフリックスの2016年期第2四半期決算によれば、全世界の総会員数は8318万人。その数は四半期ごとに数百万人単位で増えている。それに伴って売上高も右肩上がりとなっているが、一方で「営業利益」は前期まで4期連続で微減が続いた。

そのため、売上高に占める営業利益の割合を示す「営業利益率」が落ち込んでいる(2016年第2四半期で多少改善)。

なぜ売上は増えて、営業利益が減っているのか。

その原因は、コンテンツの確保に費やす金額が極めて大きいことにあるようだ。前期は実に23億ドルを注いでおり、これは同期の収入をはるかに上回っていた。前期だけに限らず、ネットフリックスは総収入に匹敵する額をコンテンツ獲得のために投入して、その充実に腐心している。

そのため、本業における稼ぎと支出の差し引きを示す「営業キャッシュフロー」は恒常的に赤字で、ここ4期連続で、2億ドル以上のお金が外に出て行っている。

コンテンツ価格の吊り上がりが悩みのタネ?

これほどまでにコンテンツにお金がかかっているのは、他社制作のコンテンツのライセンスの取得に、きわめて多額の費用が必要だからである。

「オリジナルコンテンツ」はネットフリックスの代名詞のように使われ、同社を扱ったメディアではほぼ必ずと言っていいほど「(『ハウス・オブ・カード』のような)ネットフリックスオリジナルコンテンツを拡充させること」が戦略として語られる。

しかし実際は現在のところ、ネットフリックスのコンテンツはハリウッドやその関連会社をはじめとする有名スタジオからの買い付けの方が多い。

ウォールストリートジャーナルが伝えるところによると、2015年には33億ドルもの資金を投入している。これは競合であるAmazonやHuluの約2倍の額である。

動画配信サービスの市場が盛り上がる中で、コンテンツサプライヤーである有名スタジオの価格交渉力は高まり続け、配信サービス各社の支出は莫大なものとなっている。価格が吊り上がれば吊り上がるほど、独自にコンテンツを作った方が安上がりとなる。

このロジックの下で各社はオリジナルコンテンツに投資し始めているのだが、UBS証券のレポートによれば、ネットフリックスは今後5年間、ライセンス取得には現在とほぼ同じ毎年30億ドルを費やし続ける一方で、現在年間10億ドル程度であるオリジナルコンテンツに投入する資金を年間60億ドルにまで増やすという。

支出を減らすつもりは全くないどころか、今後5年間でほぼ倍増させようというのだ。

しかし同社の大胆な拡大戦略がうまくいくかには、いくつかの疑問符がつく。

まず、総資産に占める負債以外の割合を示し、経営の安定性を測る指標である「自己資本比率」はここしばらく横ばいの21%ほどで、IT系の会社にしてはかなり低い。例えばFacebookやGoogleの自己資本比率は90%近くある。毎期かなりの額を借り入れてはいるのだが、それでも手元に残っている現金及び現金同等物はここ1年で半分強にまで減っている。

これでは、これまでの破竹の勢いの世界展開・会員数増加のペースを保って収入を増やし続けても、資金繰りが続けられるか、という懸念が出てくるのではないか。

しかも、その「会員数が増加すること」という前提が、いま揺らいでいる。

最新の2016年期第2四半期決算において、ネットフリックスの前期比会員増加数は落ち込み、2016年期第1四半期の3分の1以下だったのだ。特にアメリカ国内で苦戦し、前期比ではわずか16万人しか増えていない。

実はネットフリックスが発表している、動画サービスの中でのトラフィックのシェアは、ここ5年間ほとんど変わっていない。

それでも会員数が伸び続けていたのは、動画配信の市場が拡大していたからだが、可処分時間の奪い合いである以上、会員数はいずれ上限に達する。

パイを奪い合うゼロサム・ゲームとなった時、立ちはだかるのはネットフリックスの10倍以上、140億ドルもの現金を持つAmazonだ。

先ほどのネットフリックスが発表しているデータによれば、Amazonは1年で2%から4%へとトラフィックのシェアを倍増させている。資本力にまさるAmazonは今後、ネットフリックスのシェアをある程度奪うことになるだろう。

そう考えると、ネットフリックスの急速な世界展開は、同社の前向きな姿勢から出たものではなく、生き残るための必死の策だった、と言えるのかもしれない。

中国企業も参戦

拙著『進め! 東大ブラック企業探偵団』において、筆者は外食産業の雄・ゼンショーホールディングスの財務分析を行った。

同社の要の事業である「すき家」は急速な店舗数拡大によって価格交渉力を高めて低コストを実現し、競合の吉野家・松屋を抜き去ったが、それに伴う借入金の激増に苦しめられ、キャッシュを得るため無謀な拡大路線を続けざるを得なくなった。

動画コンテンツと外食チェーンという全く別の業種ではあるものの、近い構造にあるのかもしれない。

ネットフリックスは海外市場の開拓に力を注いでいるが、同社がウリとする「多様なコンテンツの定額配信」というスキームは、所得水準がまだ高くない途上国では受け入れられにくい、というのが実情だろう。

例えば筆者は昨年インドネシアを訪れたが、同国は世界第4位の人口を誇るものの、国民の有料コンテンツへの意識は非常に低かった。

そこで最も有望な市場は、世界一の人口に加えて近年所得水準が急速に高まり、越境ECを通じて日本のファッションブランドを買い漁るなど、文化資本を高めつつある中国だ。同国にはもともと映画文化があり、中国映画市場は数年内にハリウッドに匹敵するとの観測もあるが、同国は規制によってネットフリックスを受け入れていない。

それどころか、同国最大のEC事業を手がけるアリババは、中国の公共放送と組んで映画ストリーミングに参入するし、すでに中国版ネットフリックスと名高いLeEhoという会社は、7月にアメリカのTVメーカーとして一定のシェアを持つVizio社を買収した。

VizioはIPO間近と目されていたところを20億ドルで買われたが、これはLeEhoがテレビというデバイスを皮切りに、アメリカの動画市場に参入する足がかりを掴んだという見方もできる。ネットフリックスは中国に攻め入るどころか、逆にお膝元に攻め入られる可能性があるのだ。

今年1月に行った130ヵ国同時進出の成果は、次の四半期決算あたりからじわじわと現れてくるだろう。

今期のように会員の増加数が停滞したままか、それとも見込んだとおりに加入者を増やし、現在の戦略が維持できるか。ネットフリックスは、今、最も目が離せない会社である。

大熊将八(おおくま しょうはち)東京大学経済学部経営学科所属。公開情報から外食・メディア・家電・銀行など様々な業界の意外な実態を暴き出す経済小説『進め‼︎東大ブラック企業探偵団』の作者。同書は東京大学や京都大学でベストセラーとなっている。Twitterアカウントは@showyeahok