週刊現代
日本電産・永守重信会長「ダメな経営者はすぐ分かる」
日本一の「モーレツ経営者」に訊く

中学生で父親を亡くし、苦学して創業。売上高1兆円超の巨大企業を一代で築き上げた創業者は、実に一日16時間働く努力の人であった。停滞する日本経済の閉塞感を吹き飛ばす、痛快インタビュー。

トップは「大ボラ」を吹け

会社の経営は、気概と執念がないと絶対に成功しません。ところが、最近の若い経営者は、「野心」がないですね。

私たちの若いときは、「末は総理大臣か、大社長か」と、よく言っていたものです。みんな出世したいという思いで、一生懸命働きました。しかし、今はそういう人が実に少ない。逆に言えばライバルが少ない今こそ、頑張ればチャンスがあるということです。でも、多くの人はそこに気がつかない。こんなチャンスがある時代はなかなかないと思うだけに、実に残念なことだと思います。

京都市南区に本社を構える日本電産株式会社。会長兼社長の永守重信氏(72歳)が43年前にわずか4名で立ち上げた小さな会社は、独自の技術を駆使し、精密で高性能なモーターを次々に世に出しながら急成長。経営不振に陥った会社を積極的に買収してV字回復に導くことで、今や連結売上高1兆1,783億円の世界ナンバーワンのモーターメーカーとなった。

世間の常識にとらわれない創業者、永守氏独自の経営者論に耳を傾けよう。

経営トップは野心と同時に、夢も持ち合わせていないといけません。夢を持たないと、今の若い社員たちはついてきませんから。私は'30年には日本電産を売上高10兆円規模に押しあげたいという「大ボラ」を掲げていますが、それには理由があります。

創業当時の売上高ゼロから100億円規模に成長させるまでに13年かかりました。100億円から1,000億円規模にさせるのも同じくらい時間がかかりましたし、1,000億円規模から今の1兆円規模にかかっている時間も同じです。

だから1兆円規模から10兆円規模に伸ばす時間もだいたい同じくらいだと思うので、今から14年後の'30年には達成できるという強い自信があるんです。

すでに'20年には2兆円規模にしたいという夢は、実現可能性が高くなってきました。成功は、まず夢を見ることから始まると思っています。会社のトップが小さい目標を持つのはダメですよ。経営者の最大の仕事は、夢を形にすること。それができない経営者の下には、将来のある若者や人材は集まってきません。

社員の評価において、私は徹底的な加点主義なんです。減点主義は一切取っていません。つまり、失敗してもいいんです。加点主義だから良いことをやればプラスですし、失敗してもマイナスにはならない。基本的に、能力が足らないからといってクビにしたり、辞めさせたりすることは絶対にありません。でも、よく遅刻してきたり、休んだりするような怠け者には厳しいです。どんなに頭脳明晰でも、怠ける人は評価しません。

一番ダメなのは、チャレンジしないこと。ダメな経営者も同じで、失敗を恐れてリスクをとりたがらないですよね。

私は悪いことがあったら、良いことが2回やってくると思っています。悪いことがあったら、それは喜ばないといけない。その2倍、良いことが返ってくるんですから。

イギリスがEUを離脱することになって世界経済が不安定だとか、円高が進んで業績が悪化するだとか、みんな悪いことばかり言っていますよね。私はそれらを悪い事とは考えていないんです。

たしかに円高だから企業にとってマイナス面もありますが、逆に円高になったから海外の会社を安く買収できるというプラスもあるんです。世の中というのは、プラスマイナスゼロなんですよ。だから失敗したり、悪い事が起きたりしても、あまりネガティブに思わないほうがいいし、必ず良いことが2回返ってくると信じて、チャレンジし続ければいいんです。

勝てばストレスは吹っ飛ぶ

若い経営者たちに言いたいのは、人は人を裏切ることがあるけど、努力は絶対にその人を裏切らないということです。私はいろんな方とお会いしてきましたが、結局、努力した人が最後まで勝ち残っています。一度成功したからといって六本木に飲みに行ったり、遊んだりしていたら、それはダメな経営者。それ以上の成功は望めません。

一方で、社員には成功体験を積ませることが大切です。仕事で失敗ばかりしていると、ストレスが溜まりますよね。中途半端な仕事をさせていると、小さなストレスが溜まって、やがてそれが大きな塊となってダメになってしまう。そういう社員が多い会社は、決して大きくはなりません。

うちは社員に成功体験を積ませてストレスを感じさせないようにしているから、大きな成長を遂げることができました。

私は、仕事のストレスは仕事でしか解消できないと考えているんです。プロ野球選手やボクサーを見てください。どれだけ辛い練習をしてきて、強い重圧にさらされても、試合に勝ったら過去のストレスなんて一切吹っ飛んでしまう。経営者も社員も同じで、業績が上がったらストレスなんて感じないものです。

成功している人たちというのは、信じがたい努力をしています。元プロ野球選手の長嶋茂雄さんや王貞治さんのことを天才と言いますが、彼らは毎晩飲みにも行かず、ひたすら部屋で練習していたと聞いたことがあります。決して天才ではなく、努力の人なんです。今の時代は一生懸命働けと言うと、すぐに「ブラック企業だ」とか言われるので表現は難しいですが、やっぱり頑張った分だけしか結果は出ませんよ。

今の日本は恵まれていますから、昔のように頑張ることはできないかもしれない。だから日本の電機メーカーが中国や韓国の会社に負けたことに対しても複雑な思いがあります。日本の電機メーカーの人でビジネスで負けても技術力では負けていないとおっしゃる方もいますが、やはりビジネスで負けたら終わりなんです。もう少し日本の企業も頑張らないといけないと思いますね。

人生は「あみだくじ」

ただ、今の若い世代に悲観はしていません。若い人たちは新しいパソコンやツールを使うのがうまいし、スマホも簡単に扱うことができて能力が高い。必ずしも、昔のように根性だけでやればいいものではありませんからね。彼らには期待しています。

今も元日の午前中以外は365日フル稼働で働くという永守氏。そこまで自身を追い込むストイックさはいつ培われたのか。京都の貧しい農家の6人兄姉弟の末っ子に生まれた永守氏が経営者を志すきっかけに出会ったのは、少年時代だったという。

昭和20年代でまだ国全体が貧しくてね。私が小学3年生のとき、同級生に金持ちの息子がいたんですよ。その家に遊びに行ったときに信じがたい光景を目のあたりにしたんです。

立派な家に住んでいて、遊び道具はスイス製の列車の玩具。着る物も詰め襟の制服だった私とは全然違うものでした。おやつの時間にはチーズケーキが出てきて、夕食はステーキ。私の想像を絶するような裕福な生活がそこにあったんです。

あるとき、その同級生にお父さんの仕事を聞いたら、社長だと。当時は社長と聞いても何のことかわからなかったんですが、社長になれば、こんな立派な家に住んで、美味しい物が食べられるんだと思って、そのときに初めて社長というものに興味がわいたんです。

モーターとの出会いは、小学校4年の理科の実験でした。コイルに電流を流す実験があり、クラスで一番速くモーターを回すことができて、先生に褒められたんです。それがきっかけで、モーターというものに興味を持ち始めたんですよ。

でも中学2年生のときに父親が亡くなりまして、私は歳が離れた兄夫婦に育てられました。母も仕事はしていたけど貧しくて、中学を出たら働けとも言われていました。

ところが学業で良い成績を取れていたもんですから、中学校時代の先生が案じてくれましてね。兄夫婦を説得してくれて、工業高校に通うことができたんです。

そこから学費がなくても通えた職業訓練大学校(現在は職業能力開発総合大学校)に進むことができ、高校、大学校と7年間、勉強に励みました。

その大学校でモーター研究の権威であり、恩師でもある見城尚志先生と出会ったんです。モーターの権威から直々に教わることができたんですから、縁に恵まれたと思っています。経営者になるには育った環境や良い縁も重要だと思いますね。

私は「人生はあみだくじ」と表現しています。もし貧しくなくて普通の家庭に育っていたら、高校も普通科に行って、大学も京都大学とかに入って、会社も大手電機メーカーに就職していたと思います。でも、そこで部長クラスで終わっていたでしょう。

ところが私の場合は、家が貧しくて、兄弟も多くて、父親も早く死んでしまった。本来なら全部マイナスだけど、人生はあみだくじのようなもので、あきらめずに進んだらプラスになるんです。

経営者としての根幹には、母親の影響が80%くらいあります。幼いときには、母親の寝顔を見たことがありませんでした。私が寝るときにはまだ働いていましたし、目が覚めたときにはすでに働いていましたから。それくらい、毎日ハードワークをしていたんです。それを間近で見ていたことで、人間は一生懸命働いたら必ず成功するというのを教えてもらったような気がします。非常に厳しい母親でしたが、立派な人でした。

今の会社を起業するときにも相談して、最初は反対されたのですが、最後には「人の倍働けるなら、会社を作ってもいい」と許してくれましてね。人の倍働くということは、今でも私の信念になっています。

起業するときは、資金もないし、人材もない。そんな中で大きな会社と競争していかないといけません。

でもひとつだけ、平等なものがあるんですよ。それは時間です。一日24時間というのはみんなに平等に与えられています。時間をうまく使って、他人の倍働けば必ずライバルには勝てるんです。母はそれを教えてくれたんですね。

会社の私の部屋から母のお墓が見えるんですが、今日は身体がしんどいから早めに帰ろうとすると、後ろから「お前はもう帰るのか。人の倍働くって決めただろ」と、母の声が聞こえてくるんです。

今も社内教育には大変力を入れています。会社というのは蛇と一緒で脱皮しないと死ぬわけだから、規模に応じてそれにふさわしい会社になっていかないといけない。そのためには人材育成が重要です。現在、うちの本社の目の前に経営大学校を建設中。これからの時代はグローバルに人を集めて、優秀な人材育成のために教育が重要だと考えているんです。

息子に会社は継がせない

趣味ですか?「仕事が趣味」と言うと感じが悪く聞こえるから語弊があるのですが……私もこれまでにゴルフや水泳、柔道もやってきましたよ。何も趣味を毛嫌いしているわけではなくて、いずれも簡単に上達してしまったから、それなら仕事のほうが楽しいという相対的なものです。

今の私の楽しみは会社を大きく強くしていくことに尽きます。世界的な会社にして、'30年には売上高10兆円の会社にしたい。

ユニクロの柳井(正)さんやソフトバンクの孫(正義)さんとも親しくしていますが、彼らも非常な大風呂敷を広げています。なので、私を含めて「大ボラ三兄弟」と言っています(笑)。

夢が達成できたら、後継者に道を譲ろうと思っています。世襲は禁止しているので、息子たちには継がせません。息子たちにも小さい頃から「お前たちの将来の仕事はお父さんの会社とは関係ないから、自分たちで会社を作って経営者になれ」と言っています。

後継者は一番儲けてくれる人にしたいですね。私としては世界最大のモーター関連会社を作り、事業を残していきたいというのが目標ですから。売上高が10兆円あれば、世界中の会社と比べても上位に入れますし、モーター関係ならダントツで世界一でしょう。

財産はたしかに作りましたが、おカネには興味ありません。これまでのように医療施設などに寄付を続けていきたいですし、若い研究者は資金がないので、そういうものに助成もしていきたいですね。私自身には車一台と、住む家が一軒あれば充分ですよ。

「週刊現代」2016年9月10日号より