ベストセラー連発! 池井戸潤作品に共通する「3つの魅力」
リオ五輪の余韻に浸りつつ…

リオデジャネイロ・オリンピックの興奮が冷めやらぬ日々を送るノンフィクションライターの生島淳さん。マラソン、柔道にまつわる熱いドラマを描いた名著に酔いしれつつ、名画座館主の経営奮闘記もチェック!

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池井戸潤作品の魅力とは?

リオデジャネイロ五輪、日本は金メダル12個と多様な競技で活躍を見せたが、毎回期待が大きいマラソンは男女とも入賞はならなかった。

マラソンでは誰がどのメーカーのシューズを履いているかが注目点だが、その題材をエンターテインメントに盛り込んだのがベストセラー作家、池井戸潤の『陸王』。埼玉県行田市の足袋製造業者がレースシューズの業界に参入する物語だ。

ベストセラーなので取り上げるまでもないとは思ったが、池井戸作品の魅力について考えるいい機会になったので、改めて整理してみた。池井戸作品の魅力は、

・必要に迫られ、「夢」に挑む人たちの物語
・どの作品も金融的な一面を持つ(バルザックみたい!)
・「善」と「悪」の対立

大きくはこのあたりだろうか。池井戸作品は、夢の実現にあたって必ず金融機関が絡んでくるところがミソで、とにかく油断ならない人物が多い。

善と悪の対立に関しては、テレビドラマ『半沢直樹』でデフォルメされ大成功を収めたが、今回も小さな足袋製造業者が分かりやすいほどの善の象徴であり、対して「アトランティス」と名付けられた外資系のシューズメーカーは経済効率を徹底的に優先する。ここでも魅力的な悪役が登場(中でも小原という日本支社営業部長は読んでいて楽しくなる)、池井戸ワールドが展開し、最後には溜飲が下がる一本道。

ちなみに陸王のネーミングであるが、慶應の卒業生にとっては たまらないだろう。勘のいい人はもう、お分かりかな?

フランス流の才能の育て方

今回の五輪を見ていると、成功を収めた団体は強化の枠組をしっかりと作っているところだ。柔道、卓球、バドミントンはジュニア世代からの強化が奏功している。

日本のことを考えるうえでも、常々、海外の強化システムが気になっているのだが、そんな時に読んだのが、『最強の柔道家 リネール』

リネールは今回の五輪で100㎏超級2連覇を達成したが、決勝の原沢久喜との試合は、リネールが消極的な姿勢を取るあまり、まったく面白味のない試合でがっかり。しかし、この自伝はフランスのスポーツ強化システムが分かる意味でたいへん貴重だ。

リネールがスポーツエリートのレールに乗ったのは、14歳のときだ。自伝によると、トップレベルの選手の育成システムは次のようになっている。

「底辺はポール・エスポワール(2年間)。ここでベスト5に入れれば、その上に位置するポール・フランス(3年間)に参加できる。そしてピラミッドの頂点、スポーツ選手としての最高峰に君臨するのがINSEPだ」

ポール・エスポワールでの生活は学校に行き、11時から13時まで施設で練習。それからまた学校に戻り、夕方からは大人に混じって練習を再開する。つまり、学校とポール・エスポワールが協調して選手の育成に当たっているのだ。

自伝で興味深かったのは、エリートであるポール・エスポワールの生徒と、隣町の不良少年たちとの間で「抗争」があったという記述で、フランスの社会構造の一端に触れることができる。

リネールが並々ならぬ才能を持っていたのは、ポール・エスポワールで過ごしたのはたった1年だけで、INSEPへと「飛び級」し、一気にスポーツエリートの世界に飛び込んだことだ(通常は5年かかる)。このINSEPは、柔道だけでなく様々なスポーツのエリートが結集し、フランスの競技力を支えている。

果たして同じようなことが日本でも可能なのかどうか。いろいろとヒントが隠れている。

名画座館主の経営奮闘記

五輪期間中はテレビを見ることに忙殺され、終わってからも録画した競技をブルーレイディスクに編集する作業に追われているが、そろそろ映画館や芝居小屋に戻りたくなっている。そのせいか、本屋さんの棚で目に飛び込んできたのが『円山町瀬戸際日誌』

円山町といえばラブホテル街として有名だが、この本は「シネマヴェーラ渋谷」という'06年にオープンした名画座館主の経営奮闘記だ。

私は大学時代、早大近くのACTミニ・シアター、銀座の並木座を本拠地としたが、いずれも閉館している。

著者はもともとエンターテインメント系の法務に携わる弁護士だが、こうした名画座の環境に楔を打とうとする。

「都内の名画座が昔のままであれば、一介の素人が映画館をはじめるなどという『神をも恐れぬ所業』に手を染めることは著者はもともとエンターテインメント系の法務に携わる弁護士だが、こうした名画座の環境に楔を打とうとする。

「都内の名画座が昔のままであれば、一介の素人が映画館をはじめるなどという『神をも恐れぬ所業』に手を染めることは、たぶんなかったと思う」

私から見ればこれは贅沢な「義挙」である。

映画の特集を考える過程は、読んでいて楽しい。特集に合わせたトークショウの仕込み、チラシの製作作業。しかし、観客動員という目に見える結果が突きつけられる。

山口百恵特集は苦戦。ルビッチ特集は大当たり。読み通すと、この映画館への愛着が湧いている。『陸王』でもそうだが、仕事に一生懸命な人の話はいいものです。

9月の特集は「鈴木則文復活祭!」。ここでは藤純子の『緋牡丹博徒 一宿一飯』が見られる!

俺は行くぜ。

『週刊現代』2016年9月10日号より