金融・投資・マーケット
5兆円の大赤字! 株投資に回される私たちの年金は大丈夫なのか?
現在はプラスと信じたいが…

不安は高まる一方

国民の年金資産を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は8月26日、2016年4~6月期の運用成績を発表した。約130兆円の資産を運用した3ヵ月間の収益率はマイナス3.88%で、5兆2342億円の大幅な赤字になった。
 
英国の国民投票でEU(欧州連合)からの離脱が賛成多数となったことから、株価が大幅に下落。6月末の日経平均株価は1万5682円と3月末に比べて1076円、6.4%安くなったことから、GPIFが保有する国内株式を直撃した。
 
2015年度1年間でも5兆3098億円の損失を計上していただけに、国民の間からは、株式運用にシフトしたGPIFの運用方針に対して不安視する見方が強まっている。
 
「株比率引き上げ後、初の累積赤字」「運用改革後初の“通算赤字”」ーー大手メディアはそろって、GPIFが基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直した2014年10月以降に限ると、運用で稼いだ収益よりも損失の方が上回り、遂に1兆962億円のマイナスになったと分析したわけだ。債券中心から株にシフトしたから大損したのだ、という批判である。

「国民の皆様にご理解いただき」…

こうした批判にGPIFは躍起になって反論している。今年7月に出した2015年度の「業務概況書」の中で、高橋則広理事長はこう述べている。
 
「基本ポートフォリオの変更により、短期的な価格の変動は大きくなりましたが、長期的に必要な積立金を確保できないリスクは減少しています。私どもはこのことを国民の皆さまにご理解いただけるよう説明し続けたいと思います」
 
GPIFは市場運用を始めた2001年からの累計でみれば、3月末でも45兆4239億円の累積収益を得ていると強調。この額は6月末でも40兆1898億円にのぼるとしている。

第2次安倍内閣がスタートする前の2011年度末の累積収益は約14兆円。アベノミクスによる株価上昇によって累積収益は大幅に増えた。2014年度末には50兆7338億円に達している。アベノミクス以降、大きく儲けたのだから、問題ないというスタンスなのだ。
 
では、基本ポートフォリオの見直しは間違いだったのだろうか。
 
GPIFは2014年10月30日に基本ポートフォリオを見直した。それまで60%を日本国債などの「国内債」で運用するとしていたものを35%に引き下げ、一方で国内株式を12%から25%に、外国株式を同じく12%から25%に、外国債券を11%から15%に引き上げたのである。債券中心だったものを半分は株式に投資するスタイルへと大きくシフトしたのである。
 
この見直しは、第2次安倍内閣成立以来の改革方針に基づいたものだったので、株式へのシフトでそれまでの累積黒字をすっかり失ったのならば、安倍内閣の失策ということになる。
 
だが、株式への投資の推移をみると、実際はやや異なる。GPIFは2014年10月に基本ポートフォリオを見直す以前から、株式シフトを進めていたのだ。安倍内閣発足直後の2012年12月末に12.92%に過ぎなかった国内株式での運用割合は基本ポートフォリオ見直しの直前である2014年9月末には18.2%にまで高まっていた。

GPIFの高橋理事長【PHOTO】gettyimages

当時のポートフォリオで認められていた乖離幅の上限いっぱいまで達していた。そのポートフォリオを見直さなければ、それ以上、日本株を買うことができないところに達していたのだ。
 
つまり、ポートフォリオ見直しを「出発点」とするのはコクで、アベノミクスが始まった時点からの累積収益を見て批評してほしいというGPIFの主張は分からないでもない。

株価下落→すぐに損切り、でいいのか?

もちろん、ポートフォリオの見直しで、GPIFはその後も日本株を買い増す。2014年10月から2015年6月末にかけて買いに動いたのは間違いない。あくまで資産だが、おそらく3兆5000億円前後を買い増したのではないかと推測できる。

このGPIFの買いが、日経平均株価が1万6000円台から2万円を超えて上昇する原動力になったのは間違いない。2015年の6月末でGPIFの運用資産に占める日本株の割合は過去最高の23.39%に達した。買い増しに加え、株価が上昇したことが、保有割合を押し上げる結果になった。
 
中国・上海株市場の大幅下落などをきっかけに、そこから株価の下落が始まったわけだから、GPIFの運用収益が大打撃を受けるのは当然である。

問題はここからだ。株価が下落したからといって、損切りして株式を売却するのか、という問題だ。年金運用は長期の運用収益を追求する息の長い運用が求められる。短期の収益に一喜一憂する話ではないのだ。まして、安倍内閣が目指すように、デフレから脱却してインフレ型の経済になるとすれば、債券運用よりも株式運用に理があるのは確かだ。

マイナス金利政策が採られている中で、国債主体の運用にこだわっていれば、「安全」ではあるかもしれないが、年金を支払う原資は賄えない。そういう意味では安倍内閣の方針は首尾一貫している。GPIFの理事長が「長期的に必要な積立金を確保できないリスクは減少している」と言っているのはこのためだ。
 
株式で長期に運用するならば、決めた基本方針はコロコロと変えないのが原則である。国内株式に25%というポートフォリオを決めたらば、それに従って投資していくのが筋である。
 
株価が下がれば当然、保有資産の割合は低下する。国内株式での運用割合は今年6月末で21.06%にまで低下している。株価が下がれば基準まで買い増し、株価が上昇して基準を上回れば売却して利益を得るのが、ポートフォリオ運用だ。つまり、「ナンピン買い」である。
 
仮に6月末の株価水準を前提に25%まで買い進んだとすると、5兆円以上を新たに株式に投じることになる。
 
GPIFの運用者はプロなので、当然、こうした「ナンピン買い」に動くはずだ。いや、株価の下落局面で買い増していて、日経平均株価が1万6700円まで戻した現在、運用収益がプラスになっていると信じたい。
 
だが、問題はこうした株式への追加投資に国民が信任を与えているかどうか、である。5兆円損した翌期は7兆円儲けましたという資産価値の振幅を受け入れられているのかどうか。

GPIFは運用対象として保有する株式銘柄の開示を始めた。こうした透明化は信頼を得る第一歩に違いない。運用体制の透明化などまだまだ政府やGPIFが取り組まなければならない課題は多い。