企業・経営
カリスマ創業者たちが漏らす苦悩〜息子に継がせるか、部下に任せるか
いつの世も引き継ぎは難しい

劇的かつ安定的な成長が見込めない時代に、自らが築いた事業をどう次代に引き渡すか。一代で年商500億円の壁を突破したカリスマ創業者たちの苦悩をここに紹介する――。

会社を継ぐのはこんなに大変

年商628億円を誇る旅行会社の「ビッグホリデー」創業者、岩崎安利社長(72歳)は悩んでいる。遅くできた長男はまだ大学生で、現在、就職活動中だ。

「以前、会社が苦しい時に『お前も大きくなったら会社を助けてくれ』と冗談で言ったのを真に受けたのか、旅行会社を中心に受験しているみたいです。うれしい反面、余計なことを言ったかなと後悔しています。

相続についても考えなくてはならないと思いつつ、まだ何もしていません。これから数年で私に万が一のことがあっても、会社が今の形で続けられる体制を整えたいと思っています。

将来は事業を子供に継いでほしいという気持ちがありますが、ある程度の規模になった会社を引き継ぐのもそれはそれで大変なこと。むしろゼロからのスタートのほうが責任という意味では、気軽かもしれません。

本人の意志もありますから、何が何でも継いでくれとは言えませんよ」

安易に子供に会社を継がせたくない。実はそう考える経営者は多い。すでにある企業を引き継ぐよりも新しいチャレンジのほうが経営の醍醐味を味わえるのではないか、という思いもある。

岩崎社長は苦労の末、一大旅行代理店を作り上げた。父親も元々事業をしていたが、51歳で多額の借金を残して急逝した。

「家族6人で、六畳一間に暮らしていましたからね。家が貧しかったものでしたから、私は1日も早くそこを抜け出したい一心で、旅行会社で働きながら定時制高校に通って、卒業と同時に会社を興しました。

儲けの大半は会社に投資してきました。少し前にパナマ文書で富裕層の資産隠しが話題になりましたが、うちも隠したくなるほど儲けてみたいものだと家族で笑っていたくらいです。

リーマン・ショックの時は報酬を7割カットしました。私は自分の責任だから仕方ないと思いますが、女房は不安だったでしょうね。そういった事業を息子に引き渡していいものなのか、悩ましい問題です」

「そのとき」に向けて

カタログギフト大手「リンベル」の東海林秀典社長(69歳)は、「そのとき」に向けて着々と準備を進めている。

「後継者はすでに3年前に発表しています。グループ内に会社が二つあるので、会長(兄)の息子と私の息子にそれぞれ継がせるつもりです。

相続のことも考えており、3年前から準備を進め、仕上げの段階に入ってきました。何もしないまま今、私に何かあれば、息子たちが相続税を払えずに破産してしまうからです。

ただ、これは相続税対策というよりは、事業承継が目的です。私が死んだ後、会社や資産をどうするかを決めておけば、安心して子供たちも仕事に集中できるからです」

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事業承継にはいくつかのパターンがある。生前に株券を渡すのも一つの方法だろう。

「ただ、子供に株を渡しすぎると、どこかの会社のように反乱を起こされる危険性もありますからね(笑)。家族が揉めないことも大切ですし、揉めると結局、会社が傾いて、社員に迷惑をかけることになりますから。

将来的には、孫にも会社を継いでほしいと思っていますが、それはさすがに息子から『オレの子供なんだから、オヤジが勝手に決めるな』と怒られてしまいました」

息子に事業をそのまま続けてほしいだけではない。東海林社長は経営理念を正しく引き継いでもらいたいと切望する。

「私は京セラ創業者の稲盛和夫さんから一番影響を受けました。わが社のモットーである『企業を大きくするということは、社員の物心両面の幸せを実現するため』というのも、稲盛さんから学んだことです。

『物』とは給与などの待遇のこと、『心』とは誇りを持って働ける職場であること。

給料を上げるためには会社を大きくしないといけない。シェアトップを目指すのは、社員の精神的な満足のためです。カタログギフト業界でトップ企業に勤めていると言えるかどうかは、大きな違いですよ。

社員の結婚式にはほとんど出席していますが、親御さんから『リンベルに子供が勤めていてよかった』と言ってもらえるときほど、うれしいことはありませんね。

時代が変われば新しいことに挑戦していくことは当然ですが、『物心両面の幸福を追求する』という基本理念は、息子たちにも引き継いでほしいと考えています」

二代目社長は心が弱い

一方、関西や関東を中心に103店舗のパチンコホールを展開する「アンダーツリー」の木下春雄社長(73歳)は、事業の世襲に否定的な考えだ。

「私はパチンコ設備会社の雇われ社長をしていましたが、43歳の時に一念発起して、ホールの経営者になりました。パチンコ店の経営者が、私の夢だったんです。今年9月で売上高は2500億円になります」

同社は業界4位の一大パチンコグループだ。それを誰が引き継ぐのか。

「私は後継者を創業一族から出したいとは考えていません。夢と志を持って、チャレンジ精神を抱き続ける社員に後を譲りたい。

トップリーダーになるには、決して頭脳明晰でなくてもいいんです。一度自分が掲げた目標に対して、失敗しようが、挫折しようが、ひたむきに続けられることが大事。失敗して悩んでも、翌日には明るい顔をして、目を輝かせて働く人になってほしいと、社員には常々言っています。

人生なんて、どうせ思ったように全部がうまくいくことなんてないんですから。トップリーダーがそういう姿勢でいなければ、社員もついてこないと思いますね」

創業者の子息はチャレンジ精神に欠ける——。木下社長は、多くの同業他社を見てきて、そう感じてきたという。

「今はパチンコ業界でも創業一族の二代目や三代目にオーナーが世代交代しているところが多いですが、チャレンジ精神が弱いなぁと思いますね。みんな最初の時点で成功しているものを引き継いでいるから、次に踏み出す勇気がないし、精神力も弱いし、欲がない。

実際に、多くのパチンコ店は二代目、三代目にして、潰れていっています。自分の息子に継がせて潰れたら、その息子がおかしな人生を歩むことになります。経営者として、親として、それをさせたらダメだと私は思います。

他人が継いで潰れたのなら、見る目がなかったと諦めもつくけど、息子が継いで潰れたら、親の教育が悪かったということになりますしね」

輝かしく映る金持ちの一族も、大いに頭を悩ませているのである。