医療・健康・食
「疲れないイスの座り方」、この4つのイラストでマスターできます
オフィスチェアーは、日本人には向かない

なぜあなたはリラックスできないのか。それは、本当の「リラックスの仕方」を知らないからです!

『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』の著者で、ヒト本来の「自己調整力」を引き出すボディワークを提唱する藤本靖さんと、『友だちの数で寿命はきまる』の著者で、予防医学研究者の石川善樹さんが、生活に役立つ「マインドフルネス」の実践方法を説きます。

左:石川善樹氏 右:藤本靖氏

ラクな椅子と正しい椅子は違う

石川 僕はマインドフルネスも、ずっと「不明なこと」に分類していました。最近になって、かなり「本当のこと」に近づいてきたという手応えを感じているところです。

藤本 石川さんは、ビジネスパーソンに向けた「マインドフルネス講座」なども開催していますね。

石川 常に「これでいいのか」と疑いを持って取り組んでいます。たとえば、ストレスが多い人がリラックスするのは、果たして本当にいいことなのか。リラックスすることで、集中して働くことができなくなってしまう場合もあるかもしれません。

藤本 たしかに、物事はバランスですからね。

石川 その中で僕が唯一、自信をもって伝えているのは、「姿勢を正して、呼吸を整えましょう」です。

藤本 慎重な石川さんが「姿勢を正して呼吸を整える」ことについては確信があるということですね。

石川 重力は人間にとってものすごく負担が大きいのですが、特に座っている時は、立っている時のおよそ2倍の負担がかかります。だから姿勢が悪いと、集中力が続かない。デスクワークをするビジネスマンの生産性にも大きく影響するんです。

ところが、オフィスで使われている椅子は、正しい姿勢を保つのではなく、身体にとってラクな椅子。これまでメーカーは、人間工学に基づいて、身体にとってラクな椅子を作り続けてきました。オフィスで使うほとんどの椅子には、背もたれがついていますが、正しい姿勢を保つためには、必ずしも必要ではありません。

藤本 人間が自然に持つバランス調整力を引き出す構造になっていないということですね。後ろに背もたれがあると、それを頼りますから、自分でバランスをとる能力が退化してしまう。身体が正しい姿勢を忘れてしまう。

石川 先日、日本のメーカーがつくったある椅子(アーユルチェアー)を試したのですが、それに座るとものすごく姿勢がよくなるんです。背もたれではなくて、腰あてがついています。座ってすぐに快適になる椅子ではありませんが、正しい姿勢に導いてくれる椅子です。

藤本 そもそも東洋人と西洋人は身体の骨格が全く違いますが、オフィスチェアを見る限り、日本人向けにつくられたものは、あまりありません。

石川 現代人は、自分の身体に対する感覚が薄い。だから自分が悪い姿勢になっていてもほとんどの人は気が付いていません。ところが正しい姿勢で机に向かうと、集中力が上がって仕事のパフォーマンスも上がるんです。

藤本 ラクな椅子ではなく、正しい椅子に変えるだけで姿勢がよくなって、さらにバリバリと仕事をこなすことができる。

読者の方は、オフィスの椅子をすぐに買い換えるわけにもいかないと思いますので、長時間座り続けても疲れない座り方をマスターできる簡単なワークを紹介します。

座るときに大切なのは、実は脚の使い方なんです。ほとんどの人はお尻だけで身体を支えようとしています。そこで、ワークを通じて、お尻だけにかかっている重心を足裏にも移して、お尻と左右の足裏の三点で身体を支えられるようにしましょう。

1)たとえばこんな感じです。椅子に座ったら、両手を太腿の裏側、坐骨より少し膝よりの部分と座面の間に挟むようにして入れてください。

2)骨盤がなめらかに前後に傾く動きができるようになるのを確認したら、そのままゆっくりと身体を前に傾けます。いわゆる「お辞儀」の動きです。

3)ある程度前にかがんで足裏にしっかりと重さがかかったら、今度は足裏で地面を踏んで身体をゆっくり起こします。

4)お尻で座りこんでいたときに比べると上半身の力が抜けて、脚を含めた下半身がどっしりしているのが感じられますか?

そしたら、太腿の下に置いていた手を抜いて、腕を前にぶらさげるようにして前屈してみてください。
 
上半身の力がさらに抜けて、背骨がすっきり伸びるのが感じられたら、また先ほどと同じように床を足裏で踏んで起きあがります。

優秀なビジネスマンの共通点

石川 スポーツ選手をインタビューしてきて気付いたのですが、彼らは、自分の身体がいまどんな状態にあるかをよくわかっています。それは「普通」がどんな状態かをわかっているということです。

藤本 自分なりの基準があるということですね。

石川 イチロー選手は、スロースターターと言われる通り、4月のオープン戦から絶好調という年はあまりありません。シーズンは長いので、最初から絶好調だとそこから落ちていくだけ。

それよりも不調な状態から次第に上げていく方が、結果として長く好調を維持できます。その時に基準となるのが、「普通」なんです。「普通」の状態で適度に揺らぎがあるくらいが、人間にとって最も自然な状態。それが長く続くことで、パフォーマンスが安定します。

藤本 自分の身体をどう感じるかという「感覚」は主観的なものです。他人の肩こりと、自分の肩こりとどっちが辛いかは比べることができません。だから、自分の身体を通して自分なりの「感覚の基準」を持つことが重要になります。

石川 普通というのは戻るべき場所でもあります。味覚に例えると、大抵の日本人は、基準となる味覚が旨みなんです。だからどんなに美味しいフランス料理でも、それが続くと、旨みが恋しくなります。ところが基準がない人は、脂や糖を求めて果てしない旅に出てしまうんです。

藤本 戻るべき場所がないから。スポーツマンの場合は、コンディションが安定しないということですね。スポーツマンをビジネスマンに置き換えても同じ。パフォーマンスを安定させたければ、まず自分の感覚の基準を知ること。

石川 先ほど、ほとんどの椅子が、身体にとってラクな椅子だと言いましたが、’90年代くらいから人類を取り巻く環境が快適になりすぎているんです。ベッドもどんどん改良が進んで、NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発した低反発素材を使ったベッドや枕もあります。オフィスのエアコンももはや必需品です。結果、快適中毒になっています。だから、人間の不快に対する耐性がどんどん落ちているんです。

藤本 つまり自己調整能力が低下していると。

石川 そうですね。僕は最近、ベッドを使わないで床で寝ているんです。学会でパリに行った時にホームレスの人たちが道路で寝ているのを見て、自分はベッドで寝るのが当たり前になっているけれど、それを当たり前と思ってはいけない。ベッドで眠ることは快適すぎるのではないかと気付いたんです。

藤本 しっかり眠れますか?

石川 床は硬いので、睡眠の質はすごく落ちています(笑)。だけど、あえて身体を不調な状態におく。イチローのやり方を真似ています。朝、起きた時に感じた不調を、どうにかして普通の状態にもっていく。それを続けることで自分にとっての普通がわかるのではないかと。

藤本 床で寝ると自分の身体の固いところ、悪いところに真正面から向き合うことになります。最初はそれが痛みや不快さとして出てくるかもしれませんが、徐々にそれを緩めたり、調整したりする能力が取り戻されると、フカフカのベッドより、かえって心地よく眠れるようになるかもしれないですね。ちなみに、私は数ヵ月に1回断食をしています。3日間、水と野菜ジュースだけで過ごすんです。

石川 身体がすっきりするんでしょうか。

藤本靖氏

藤本 そうですね。胃の中を空っぽにすることで、快も不快もなくニュートラルな状態になるんです。味覚もリセットされる感じです。

石川 藤本さんのワークにも、自分なりの「普通」、つまり基準に気付かせる効果があるのではないでしょうか。

藤本 おっしゃる通りです。人は本来、自分の身体を最適な状態に保つ、自己調整能力をもっているんです。それがうまく働くようにするには、まず「感覚」に働きかけることが必要です。

石川 なぜ感覚に働きかけることが大事なのですか?

藤本 ストレスを受けて緊張するのは自然なこと。問題はストレスが去っても緊張が抜けない状態が続き、心と身体にダメージを与えることです。重要なのは、自分の身体が基準点に対して、今どの程度緊張しているのかに気付けることです。そうすれば、緊張をゆるめるような自己調整機能が働き、過剰な緊張をいつまでも抱えこむ必要がありません。

石川 どうすれば、緊張に気付くことができるのでしょうか?

藤本 気付きを高めるのは「覚醒度」の問題と私は考えています。覚醒度とは、脳神経系がどの程度起きているかという基準のこと。集中の程度(=脳のスイッチ)と言ってもいいでしょう。

われわれは、「集中する=緊張」、「集中を失う=リラックス」の二者択一で考えがちですが、目指すべきは「集中している(脳は起きている)けど、リラックスしている」状態なのです。坐禅や瞑想の三昧の状態、いま流行りの言葉でいうと「フロー」状態がそれにあたります。感覚に働きかけることは、脳のスイッチを入れることになるのです。

現代人は「感じる力」が衰えている

石川 私が実践している「マインドフルネス」は“Attention training”、つまり「気付き」のトレーニングだと言われています。「注意」をどこに向けるのか。街を歩く時に、道路にゴミが落ちているとか、スマホを見ながら歩いている人が多くて危険だとか、不満のポイントにばかり気を取られて歩くのではなく、喜びのポイントを見つけて歩くようにすると、オフィスに着いた時に気分もいい。

私は、マインドフルネスをやるようになって、あらゆることに気付きやすくなりました。

藤本 たとえば、どんなことですか。

石川 ベッドの件もそうですし、自分自身の生き方についても気付きがありました。私はここ10年くらいずっと「今日も何もできなかった」と思いながら眠りについていたんです。研究者としての僕の目標は、新しい学問を創ることなのですが、そこをゴールに置いている限り、毎日絶望するしかなかった。

藤本 ストレスが溜まりますね。

石川 そこで注意の向け方を変えました。満足の基準が高すぎるから、できなかったことに注目してしまう。それだと日々の生活があまりにもつらいものになる(笑)。目標ではなく、自分はどんな生活を送りたいのかに注意を向けたわけです。

呆然としました。目標はあるのに、自分がどんな生活を送りたいかは考えたことがなかったんです。じっくり考えようとして気付いたのは、そもそも考えるためには、感じることが必要だということ。感じるステージ、次に考えを深めるステージ、最後に考えをまとめるステージと続きます。何かを考える上で、感じることはすごく大切なんです。

藤本 現代は、情報が多すぎて、何を選択しても確信がもてません。○○が身体にいいと言われると、それを食べた時に違和感があっても「いや、これは身体にいいはずだ」と無理やり納得させてしまいます。そういうことを続けているうちに「感じる力」はどんどん衰えていきます。

石川 感じることよりも考えることに重きを置く人も増えていますよね。会社でも企画を提案すると、「もっと考えてから持ってこい!」と怒られてしまう。転職しようと誰かに相談しても「よく考えたのか?」と。そういうあなたは、考えるってどういうことか、考えたことがありますか? って。

藤本 石川さんは床で寝ることで、「普通」を知ると同時に、感じる力を鍛えているんですね。

石川 わざわざ真似をする必要はありません。こんな生き方は面倒くさいだけですから(笑)。

(構成/今泉愛子)

*この連載で紹介した藤本さんのワークは、『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(講談社)で、さらに詳しく紹介しています。マインドフルネスについての実践法は、石川さんの『疲れない脳をつくる生活習慣 働く人のためのマインドフルネス講座』(プレジデント社)をご覧ください。

石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者。医学博士。1981年広島県生まれ。株式会社Campus for H共同創業者。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、マーケティング、データ解析等。講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(ともにマガジンハウス社)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)がある。
藤本靖(ふじもと・やすし)
兵庫県出身。東京大学経済学部、東京モード学園(ファッションスタイリスト学科)卒業後、政府系国際金融機関で政府開発援助(ODA)の業務にかかわる。その後東京大学大学院で身体教育学を専攻し、脳のシステムや心と体の関係について研究。米国Rolf Institute認定ロルファー、ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー。「身体のホームポジション」という独自の身体論を展開、各地で講演、ワークショップなどを行う。著書に『1日1分であらゆる疲れがとれる耳ひっぱり』(飛鳥新社)、『感じる力をとり戻しココロとカラダをシュッとさせる方法 わりばし&輪ゴムのワークが効く!』(マガジンハウス)ほか。最新刊『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(講談社)も好評。