グーグルが研修で採用した「最も簡単に疲れを取る方法」教えます
秘密はアゴにありました

あなたの疲れはなぜ取れないのか――。その秘密を、『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(講談社)で、ヒト本来の「自己調整力」を引き出すボディワークを提唱する、藤本靖さんと、『友だちの数で寿命はきまる』の著者で、予防医学研究者の石川善樹さんが解き明かします。第一回目は、Google米国本社の研修でも実験採用されているボディワークを紹介!

左:石川善樹氏 右:藤本靖氏

雑談で生産性がアップする!

藤本 今回、対談をお願いしたのは、石川さんの著書『友だちの数で寿命はきまる 人との「つながり」が最高の健康法』を読んで、自分が関わる精神医学の最新の理論とつながる部分があり、大変興味を持ち、ぜひお話をお伺いしたいとおもったからです。

石川 ありがとうございます。

藤本 この本には、マサチューセッツ工科大学(MIT)の実験で、ある企業の生産性について調査したところ、メンバーたちの休憩時間を合わせて、メンバー同士が雑談をする機会を増やすと、生産性が向上することがわかったとありました。人間にとって「つながり」はすごく大事だと色んなところで言われていますが、それをしっかりとしたデータをもとに解説しているのが、印象的でした。

石川 僕は研究者なので、基本的にはすごく慎重なんです。物事は「本当のこと」「嘘のこと」「不明なこと」に分類されますが、健康にまつわるもののほとんどが不明なこと。「つながり」が大事というのも長らくそうでした。

藤本 それが実験によって、「本当のこと」に分類できるようになったんですね。

石川 この実験では、企業が生産性を向上させたければ、リーダーシップよりもメンバー同士の「つながり」を大切にしたほうがいいという結果が出ました。雑談は企業にとってもムダではないと。

藤本 雑談がストレス解消になったり、モチベーションの維持に役立ったりするんでしょうね。

石川 つながりをもつことは、少なくて深いものよりも、浅いものでいいから多くもつ方がいい。できれば、三つ以上のコミュニティに所属するといいですね。

石川善樹氏

藤本 なぜですか?

石川 少ないと、所属するコミュニティで何かトラブルがあった時に、つながりを失ってしまいます。友人関係にしても同世代としかつながっていない人は、これからもっと先の人生を考えると友人が先に亡くなることもありますから、若い人とのつながりを作っておくことも大切です。

藤本 あまりつながりをもちたがらない人もいますね。一人でいる方が気楽だと。

石川 これも研究の結果わかったことですが、人間には孤独になりたがる遺伝子もあって、つながりをもつより1人でいた方がプラスに働く人もいます。つながりをもちたくないなら、無理につくる必要はないかもしれませんね。

藤本 つながりは大事、寿命が延びる、そうわかっていても、人と関わるとつかれてしまう、という人が意外と多いようです。

石川 実のところ、私もあまり得意ではありません。

藤本 人づきあいが得意か不得意かは性格で決まる、と思っている人が多いのですが身体のつかいかた次第で解決できることも多くあるのです。人間関係の問題を、心がけや精神論で解決しようとしてもなかなかうまくいきません。まずは、身体をゆるめて、その使い方を変えてみることを私は提案しています。

石川 たとえばどういうことですか?

藤本 現代人の多くは「人と会うとつかれる」と感じているようです。だから「つながり」を避けてしまう。相手が発する情報を受け止めているのは、目や耳などの感覚器官なので、その使い方が変われば、人と会うことがストレスでなくなります。

これはもう性格や精神論の話ではなく、具体的な身体の技術です。私は、人づきあいが楽になる目耳口鼻の使い方を探究しています。(『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』参照)

たとえば、日本人に多い「人と目を合わすのが苦手」な人は、見られることには慣れていないので、目が緊張してしまうんです。人と会ったときには相手のことを「見ようとする」のではなく「受けとるように見る」ことがポイントになります。

石川 難しいですね(笑)。もう少し簡単にいうと、どういう感じでしょうか!?
 
藤本 相手を見ようとして自分から情報を捉えにいくのではなく、相手の情報が入ってくるのをただ待つだけ。すると相手と目を合わせても緊張しません。相手も「自分のことが受け入れられている」と感じることができるので、心地のいいコミュニケーションが可能になるんです。

石川 なるほど、僕はそういう方法をやったことがないのですが、実際に効果はあるんでしょうか?

藤本 目は自意識を表す場所なので、その緊張がとれると自分の在り方が変わります。私たちは幼い頃から「話す人の目を見なさい」と教えられてきました。ところが、相手を見よう、理解しようと意識すればするほど、疲れます。同時に相手にもプレッシャーを与えてしまうんです。

石川 それを実際の人との関わりの中で使うにはどうすればいいのですか?

藤本 目の使い方を意識するだけです。ガツガツと情報を取りに行くのではなく、悠然と受け止めるよう心がける。「人当たりのいい人」「聞き上手な人」は、自然とそういう使い方ができているような気がします。

石川 なるほど。それが身体の使い方を変えるということなんですね。

現代人の疲労はアゴにたまる!?

藤本 あと人間関係が難しくなる理由として、現代人はストレスをため込みすぎていて、神経が過緊張状態になっていることがあります。

石川 ピリピリした状態だと、余裕をもって対応できなくなりそうですからね。

藤本 そうなんです。つながる前に、まずはある程度リラックスしていることが必要です。私はこれまで、スポーツ選手、ビジネスマン、学校の先生など、様々な分野の方々を対象に、リラックスのためのセルフケアの指導を続けてきましたが、その中で最も多くの方に効果があったワークをここで紹介したいとおもいます。

Google米国本社の研修でも、実験採用してもらって評判がよかったものです。リラックスするためのポイントは「アゴ」にあります。

石川 アゴですか。

藤本 私たちのアゴは、すごく緊張した状態にあるんです。ビジネスマンの方は特にそうです。仕事で取引先から無理難題を吹っかけられた時なども奥歯には自然と力が入っています。ストレスから自分を守ろうとして身構えるからです。人といると気を使いすぎてしまう人や、会議で発言するのは得意なのに、雑談が苦手、という人はアゴの緊張が抜けていない可能性があります。

ストレスがかかる状況で緊張しても、ストレスから解放された後に緩むことができればいいのですが、アゴは一旦緊張してしまうと、それを緩めるのがなかなか難しい。なぜなら、そもそもわれわれはアゴが緊張していることに気が付いていませんから。石川さんも「割り箸ワーク」を体験してみませんか。

石川 僕はストレスを感じにくい人間で、肩こりも感じたことがないんです。しかも今、ストレスも何もない状態ですが、それでもいいんでしょうか。

藤本 もちろんです。何がしかの変化を感じていただけると思います。

使用前の割り箸を縦にして、太い方を奥にして、奥歯でくわえます。それだけです。

「割り箸ワーク」を体験する石川善樹氏

藤本 どうですか。物理的にアゴが開くので、顎関節を閉じる筋肉が引き延ばされます。(10秒経過)

それでは、ゆっくり右を向いてください。そこで静止します。遠くを見て、呼吸を楽にしましょう。(10秒経過)

ゆっくりと正面に戻してください。どうでしょうか。

石川 呼吸を意識したり、首を回したりもしているので、割り箸だけの純粋な効果という意味ではわかりにくい部分がありますね。

藤本 さすが石川さんです(笑)。そういう視点はこの手の健康法の有効性を考えるうえで、とても重要なポイントだと私は考えています。

石川 一般的には、どんなふうに感じる人が多いんですか?

藤本 顎関節のところにある筋肉が緩むことで、首や肩がラクになったと感じる人が多いですね。「呼吸がラクになった」「リラックスした」とおっしゃる方もいます。

石川 僕は鈍感なので、効果がわかりにくいタイプの人間なのかもしれません。

藤本 変化をすぐに感じる必要はありません。石川さんの身体は、今は本当に状態がいいのかもしれませんし、あるいは、感覚をあまり鋭敏にしないことで神経系が安定する状態なのかもしれません。

石川 なるほど。僕は研究者なので基本的に物事の判断には慎重なんですが、本当のこと、嘘のこと、不明なことに分類した時に、不明なことは、明確な害がないなら、どんどん取り入れてやってみるといいと考えています。「割り箸ワーク」は一ヵ月後にもう一度試してみたい気もします。

藤本 石川さんは生粋の研究者でありつつも、自由な発想もお持ちなんですね。すごく勉強になります。

(構成/今泉愛子)

*この連載で紹介した藤本さんのワークは、『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(講談社)で、さらに詳しく紹介しています。

石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者。医学博士。1981年広島県生まれ。株式会社Campus for H共同創業者。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、マーケティング、データ解析等。講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(ともにマガジンハウス社)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)がある。
藤本靖(ふじもと・やすし)
兵庫県出身。東京大学経済学部、東京モード学園(ファッションスタイリスト学科)卒業後、政府系国際金融機関で政府開発援助(ODA)の業務にかかわる。その後東京大学大学院で身体教育学を専攻し、脳のシステムや心と体の関係について研究。米国Rolf Institute認定ロルファー、ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー。「身体のホームポジション」という独自の身体論を展開、各地で講演、ワークショップなどを行う。著書に『1日1分であらゆる疲れがとれる耳ひっぱり』(飛鳥新社)、『感じる力をとり戻しココロとカラダをシュッとさせる方法 わりばし&輪ゴムのワークが効く!』(マガジンハウス)ほか。最新刊『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(講談社)も好評。