ド派手なスーツで総会屋と大バトル「恐怖心はまったくなかった」
第15回ゲスト:久保利英明さん(後編)
〔写真〕峯竜也 〔構成〕小野塚久男 〔撮影協力〕WODKA TONIC

大人の遊びを知り尽くした伝説の編集者・島地勝彦が、ゲストとともに“男の遊び”について語り合う「遊戯三昧」。第15回目となる今回は、自他ともに認める日本一(?)の弁護士、久保利英明さんをお迎えした。後編では、夏の対談にふさわしい、ちょっと怖い話も飛び出した――。(【前編】はこちらをご覧ください)

アフリカでは頭を濡らしてはいけない

島地 半年間の貧乏旅行で、怖い思いをすることはなかったんでしょうか。わたしの場合、旅行というと取材絡みがほとんどで、編集者やらコーディネーターやら、大所帯で行動することが多いので、一人旅はどうなのか興味があります。

久保利 今は75キロですが、当時のわたしはけっこう太目で、日本を出発するときは84キロありました。帰国したときは62キロ。半年も貧乏旅行していたら誰でも痩せるものですが、たまらなかったのは暑さですね。エジプトのアスワンというところでは47度という猛烈な暑さを経験しました。

島地 35度を超えたくらいで「猛暑、酷暑」と騒いではいけませんね。

久保利 空気が乾燥しているので日陰に入れば案外過ごしやすいのですが、キマという街に行ったとき、ナイル川がすぐ近くを流れていたので、子供の頃の感覚で泳ごうとしました。すると現地の人が「頭を水につけてはいけない!」という。

島地 その暑さで川を目の前にしたら、すぐにでも飛び込みたくなりますが、またどうして。

久保利 そうですよね。自分もそのつもりでした。でも頭を濡らして太陽にあたると、気化熱を奪われ、頭がクラクラして、水の中でどっちが上か下かがわからなくなるそうです。

日野 想像するだけで汗がしたたるような光景ですね。では現地の人も飛び込むのではなく、足からそっと入る感じなんですか。

久保利 そうです。基本は首から下を水に漬ける感じで、泳ぐときも立ち泳ぎ。決して頭を濡らさないようにしていました。現地の人の言うことを聞かず、川に飛び込んで潜っていた白人男性もいましたが……。

島地 どうなったんですか?

久保利 潜ったまま、浮かび上がってくることはありませんでした。

アフリカでの経験に比べれば……

島地 なんと。もし現地の人の忠告を無視していたら、久保利さんも危なかったかもしれない。

久保利 でしょうね。これはアフリカ一人旅から得た教訓ですが、未知の世界に行ったら現地の人の話はよく聞いたほうがいい。たとえば砂漠で野宿すると、向こうの人は毎朝、靴を履く前に逆さにして思い切り振るんですね。何をしているのか尋ねると、靴のなかにサソリが入っているかもしれないから、履く前には必ず確認すると。教えてもらわなければ、サソリにやられていたかもしれません。

日野 そういった経験は、後の弁護士活動にどのように役に立っていますか。

久保利 満員のバスから転げ落ちたり、下痢で数日間フラフラになったり、生死にかかわるような体験もしました。弁護士として総会屋と対峙するとき、よく「怖くないのか?」と聞かれましたが、恐怖心はまったくなかった。苦しいこと、辛いことはたくさんあっても「あの時のアフリカ旅行に比べればなんてことはない」と思って前に進んできましたね。

島地 久保利先生の功績として、株主総会から総会屋を一掃したことがあげられますが、それもアフリカ体験があったからことヤクザ者と渡り合えたと。

久保利 もちろんそれだけではないですが、向こうが凄みをきかせてきても、顔色一つ変えずに対応することで、「こいつは他の弁護士と違う」と思わせることができたはずです。

島地 ん? おい、日野、ありがたいお話の途中でスマホいじって何してるんだ、お前は。

日野 あ、すみません。ちょっと調べてみたんですが、「久保利方式」と呼ばれる株主総会の進め方が総会屋一掃のきっかけになったとか。

防弾チョッキを着込んで株主総会へ

久保利 総会屋のやり口というのは、まず個々の議案にどんどん質問をあびせて進行を遅らせるんです。総会屋に狙われると株主総会が成立しなくなる恐れがあるので、脅されるとすぐに折れてお金を払う会社もありました。

でもそれは法律で禁止されている行為ですから、今度は恐喝のネタにされて、未来永劫、お金をむしり取られてしまうわけです。ただ総会屋の後ろにいるのは、いわゆる反社会的な組織ですから誰も手を出せない。

島地 久保利先生は違ったわけですね。でも飯のタネを奪われたら総会屋にとっても死活問題だから、身の危険を感じたこともありますよね、きっと。

久保利 防弾チョッキを着たこともあります。

島地 すごい! まさに命がけですね。

久保利 ただ、わたしはけっこう目立つ存在だったので、仮にわたしが襲われたとしたら、警察は徹底的に捜査するだろうし、マスコミも取り上げたはずです。となると、向こうにとっても失うものの方が大きい。だから直接命を取られることはなかったのだと思います。

日野 確かにその黒さと、ド派手なスーツは目立ちすぎます。島地さんも目立つタイプですが、先生の存在感には到底かなわないですね。

島地 今日は白ですが前はピンクでした。派手なスーツは総会屋と渡り合っていた頃から着ていたそうですね。

日野 まさか、法廷にもその出で立ちで?

久保利 もちろんそうです。総会屋からは「こら久保利! ヤクザモンでも着ないような服を着やがって!」と野次られたものです。

島地 アッハッハ、それは愉快な話ですね。

夏の対談にふさわしい怖い話

久保利 島地さんの怖い体験も聞かせてください。今日は暑いので、背筋が凍るような怖い話を。

島地 子どもの頃の話ですが、親戚に家に遊びにいったとき、田舎の子供たちと一緒に沼で泳いで遊んでいました。わりと大きな沼で、真ん中に小さな島があるんですね。するとガキ大将的なヤツが「お前、あそこまで泳げるか」という。

そんなこと造作もないと、沼に飛び込んで島に泳ぎ着いて、灌木につかまろうとしたら、なぜかヌルっとする。わたしは昔から近眼で、その時はメガネを外していたから気がつかなかったんですけど、島の灌木のヌメヌメの正体は、なんと無数の蛇だったんです。

ガキ大将はそれを知っていて、わたしをハメたんですよ。死ぬ思いで引き返しました。

久保利 うわぁ、それはゾっとしますね。わたしも似たような経験があります。アフリカでトイレに入ると、壁が焦げ茶色。メガネをかけていなかったのでぼやけていましたが、なんだかワサワサと壁全体が動くわけです。なんだろうと思って顔を近づけてみたら、壁一面びっしりとゴキブリが貼りついていたんです。

島地 うーん、それもなかなか強烈ですね。わたしだったら卒倒します。

久保利 背筋がゾゾーッとしましたけど、やつらにとってはここが貴重な餌場なんだと考え、静かに用をたして出てきました。

島地 幽霊はどうですか?

久保利 心霊的な体験はないんですよ。残念ながら霊感がまったくないようで。

島地 これは学生の頃の話ですが、高円寺に当時の家賃相場の半額以下の物件があって、不動産屋のオヤジに聞いたら「訳アリ」だという。若い男女が心中した部屋で、誰が入居しても幽霊が出るもんだから、すぐに引っ越してしまうそうなんです。

日野 島地さんは気にしないですよね、そういうの。

島地 もちろん。お化けが出るにしても、とにかく安いのが魅力だからそこに住むことにしました。でも半年経っても何も出ない。

久保利 覚悟して待ってるのに出てこないというのも、具合が悪いですね。

島地 ところがある日、酔っぱらって遅く帰って来て、そのままゴロンと横になり、しばらくして目を覚ましたら、ついに出たんですよ。

久保利 出ましたか。女ですか? 男ですか? それとも二人一緒?

珍獣シマジ、女の幽霊を手籠めに!?

島地 白装束の若い女でね、最初はギョッとしましたよ。でも、よくよく見るとけっこうきれいな顔をしてる。その頃、まったく女っ気のない生活をしていたので、いい女だなあと思って、手を引いて一緒に寝ようとしたんですけど、わたしの手は空を切るばかり。お化けはというと、嫌々しながら消えてしまいました。それ以来、一度も出ませんでしたね。

日野 つまり、女の幽霊を布団に引き込んでヤろうとした、というわけですよね。

島地 いかにも。

久保利 ワッハハハハハ。さすが島地さん、豪傑ですね。その女にしてみたら、せっかく心中までしたのに、幽霊になって他の男にヤられるのはたまったもんじゃない。

日野 島地さんの精力にはお化けも真っ青というわけですか。

久保利 いや、今の話はけっこう示唆に富んでいるかもしれませんよ。常々思っているんですが、弁護士にしろ編集者にしろ、最近の若い人はテストの成績は抜群なんでしょう。でも、なんというか、人間的な面白みに欠ける。

島地 おっしゃる通りです。編集者でも、アンケートやデータにしばられ、「どうすればウケるか」ばかり考えている。そうじゃなく、自分のなかにある情熱や妄想を思う存分注ぎ込んで初めて、人の心を動かす仕事ができるんです。

テストのように答えがあるわけではなく、とにかくいろいろ試して、もがいて、生みの苦しみを味あわない限り、殻を突き破ることはできませんよ。

久保利 さすが、いいことをおっしゃる。最近は物わかりのいい、かわいいペットのような人が多く、島地さんやわたしのように獣の匂いがする仕事人にはなかなか出会えません。

日野 獣というか、お二人は今の社会では希少価値絶大な珍獣、のような気がします。

島地 珍獣! たまには気の利いたことをいうじゃないか。では先生、珍獣同士、うまい酒をもう一杯いただきましょう!

〈了〉

久保利英明 (くぼり・ひであき)
日比谷パーク法律事務所代表
1944年、埼玉県生まれ。東京大学法学部卒業。ヨーロッパ・アフリカ・アジアを放浪した後、71年に弁護士登録。第二東京弁護士会会長、日弁連副会長などを歴任。コンプライアンス問題の権威として知られ、一票の格差是正運動にも参加。『想定外シナリオと危機管理』『「交渉上手」は生き上手』『株式会社の原点』など著書・共著は70冊を数える。専門分野は、コーポレートガバナンス及びコンプライアンス、M&A、株主総会運営、金融商品取引法、独禁法等企業法務、知的財産権など。
島地勝彦 (しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。現在は、コラムニスト兼バーマンとして活躍中。『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)『バーカウンターは人生の勉強机である』(阪急コミュニケーションズ)『お洒落極道』(小学館)など著書多数。Webで「乗り移り人生相談」「Treatment & Grooming At Shimaji Salon」「Nespresso Break Time @Cafe de Shimaji」を連載中。最新刊『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』が好評発売中!

著者: 開高健、島地勝彦
蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負
(CCCメディアハウス、税込み2,160円)
1989年に刊行され、後に文庫化もされた「ジョーク対談集」の復刻版。序文をサントリークォータリー元編集長・谷浩志氏が執筆、連載当時の秘話を初めて明かす。

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