「失礼します」と言って先に帰るのはマナー違反なの?
控えめで笑える日本語の表現

控えめな日本人と日本文化

日本語の意味・語源・用途を探り、日本人の心理や日本文化の特徴に迫った『辞書ではわからないニッポン 笑える日本語辞典』

冗談まじりで解説していますが、誤情報を発信してしまわないよう細心の注意を払っており「根はマジ」です。海外からの訪日観光客もますます増える中、今の日本文化を語るうえで欠かせないエッセンスにを読み解きました。

今、日本文化を世界に発信しようという動きがさかんです。要するに「日本自慢」です。しかし、謙遜というマナーを大切にする日本人は自慢が苦手だし、偉そうに自慢する人物が嫌いです。

しかも、世界が注目するのは、「浮世絵」や「オタク文化」のように、当の日本人(特にお偉いさん)が「あまり自慢できない」と考えている庶民パワーの文化です。

そんな控えめな日本人と日本文化のキーワードをいくつかつまみ食いしてみました。

「心ばかり」のクレーム対策

【心ばかり】

心ばかりとは、「ほんの気持ちだけ」という意味だが、人に物を贈るときに「心ばかりの品ですがお納めください」などと謙譲の気持ちを込めて用いる。

つまり、相手が喜びそうもない安っぽい品物をプレゼントするとき、「これはあなたに何かさしあげたいという私の気持ちを象徴したものにすぎないので、品物についてああだこうだと文句を付けず、気持ちだけ受け取って満足してください」と、クレーム対策のために事前にはりめぐらせておく予防線である。

贈り物を渡すときの謙遜表現には、他に「つまらないものですが」がある。「つまらない」は「おもしろみがない」という意味。

品物は確かに相手が喜びそうもない安っぽいものかもしれないが、「こんなものをあげても、あなたは喜ばないよ」と言わんばかりに渡すのは、謙遜にもほどがあると思える。

英語にも、small present for you(ちょっとしたものだけど)という言い方があり、贈答の際の謙遜表現は世界共通のマナーなのだろうが、「つまらない」なんて言わず、「心ばかり」と、せめて「心」くらいはおまけに付けたいものである。

「いやしくも」隠しきれない自己主張

【いやしくも】

いやしくもの「いやし」は「卑し」で、身分が低い、下賤であるという意味。

「いやしくも」とは、「卑しい身分であるけれども」つまり「身分不相応であるけれども」「かりそめにも(一時的にではあるけれども)」という意味で、「いやしくも市長の任を預かる私」などと用いて、「身分不相応ではあるけれども一時的に市長の任をまかされた私」つまり「自分では実力不足であるとは思っているが、みなさんが私にはその任にふさわしい器量があると判断して市長という大役に選んでいただき、一時的にではあるけれどもその職に全身全霊取り組んでいる私」であると、謙遜しつつ実は大いばりしたいときに用いる。

「いやしくも」は漢字では「苟も」と書くが、中国語の「苟」は、かりそめにする(適当にやっつけておく)、おろそかにする、もしも、などの意味で、「苟同(テキトーに同意する)」「苟活(良心をごまかしてる)」などと用いられ、日本語に当てられた「身分不相応ではあるけれども」の意味はなさそう。

したがって、「苟も市長の任を預かる私」をベタに訳すと、「テキトーに市長をやらしてもらっている私ですがねえ」とホンネに即した表現になる。