企業・経営
「シャープ化」していく日本に唯一の解を提示しよう
没落してからでは手遅れだ

前回は世界で勝ち続けるトヨタ、その秘密を解説した。(前回の記事はこちら
今回は日本がこのまま凋落しないために何をどうすればいいか、提示する――。

シャープのように凋落している

結局、日本全体がシャープ化しては困るわけである。このまま何も手を打たなければ、日本全体がシャープ化していくことははっきりしている。

シャープは、トヨタ生産方式も十分にできていなかった上に、まともな商品開発・製品開発の仕組みを持っていなかった。かつてシャープは同社よりも進んだ国内メーカーのリバース・エンジニアリング(編集部注:模倣的製造)をしている三流メーカーだった。

液晶で技術的な革新があったにしても、あったのは技術だけである。技術だけ、設備だけでは勝てない。技術があるから、設備があるからというボトムアップ的な思考では、商品性や商品価値につなげられず、富を生み出すこともできず、企業競争では勝てなくなった。技術も設備もやがては競合も手に入れることができる。

現在のものつくりでは、売れるモノ(=製品)が売れるとき、売れる数だけ売れるタイミングで顧客の手に届いていなければならない。シャープは、米国の量販店に、世界の常識であるJUST IN TIME 納品もできずにサムスンやLGなど韓国勢のライバルに負けた。さらに、海外工場の運営に関するノウハウも作ることができなかった。

2006年、シャープは100億円を投資し、東欧で液晶テレビを生産する工場を新設した。ところが同地域で同種の工場を展開する韓国勢と異なり、海外工場をうまく運営することができなかった。結果1億円で売却し、撤退している。つまり韓国企業と異なり、工場の運営に関するノウハウすら、グローバル展開する能力すらなかったということである。

基礎的なトヨタ生産方式や量産工程の機械系と人間系を含めた管理方法の確立ができてはじめてグローバル競争に参加する資格が得られる。現在の企業競争は、その上で、売れるモノをいかに生み出すのか、いかにして魅力的な製品開発をするのか、という話になる。

そのために、今知られている手法の中で有効なのは、トヨタ流製品開発やその派生であるリーン開発、アジャイル的なアプローチで、過去の知見を生かしつつ、買い手にとって、「これしかない」という商品を開発する仕組みだ。

顧客が買える、実際に買う価格でありながら、会社にとっては、十分に利益の出せる原価構造を作ることができるような組織的な仕組みを作ることである。

トヨタ流製品開発のビジネスプロセスを知り、また、その中で重要な、過去の試行錯誤を必ず記録し、創造労働で、常に水準を高めていくような、トヨタ流マネジメントアプローチ、製品開発プロセスの構築に加えて、中でも重要な創造労働をする人間系のマネジメントなどについて知らなければ、もう日本企業は海外で勝つことはできない。

誤解や不正確な情報が多く不完全ではあるが、トヨタ流製品開発の派生であるリーン開発について学ぶだけでも、何も知らないよりは良い。

国内に残る近代化すらできていない業界

国内の中小企業や、行政や医療などでは、2016年現在、世界で先進的とされる業界が1930-55年頃に行い始めたことを、ようやく始めている。あるいは始めなければいけない、と議論している。つまり、日本国内には、後進国よりも管理技術、つまりマネジメントが遅れたレベルにある業界が非常に多い。実は、日本は全体として見ればまったくもって先進的な国ではないのである。

特に官庁に近い業界、規制に守られて既得権益化してきた業界は、おおむね遅れていて、競争力がない。品質が低く、高価格で、ムダが多い。人材も育っていない。国際競争力に関してはゼロに近い。同じ国内にいびつな構造ができているということである。

つまり、同じ国内に、

①世界で勝ち続けるセクター
②世界に出て行くことすらできない負け組セクター

の二つの日本があるという、分断された構造になっているのが現状である。もちろん、セクター②の中には、長らく続く再分配、バラマキの受け皿となってきた経済圏がある。つまり富の創造ではなくて、富を分捕り、消費するセクターである。(そこでは、どれだけ人より多く分配されるかばかりがもっぱら議論されている。)

あるいは、2016年、平成の日本の中に、明治村のような組織、あるいは大正、昭和初期のままの組織が残っているという言い方もできるだろう。

戦後、日本では労働力が移動できない雇用慣行がしかれてきた。終身雇用である。また大学が社会と切り離され長年、機能不全となっていた。そのため①のノウハウが後進的な②のセクターに国内で横展開(ヨコテン)することができていない。①のノウハウが実は、②では全く知られていないのである。企業と大学のグローバル化に伴い、情報の正確さはともかく、①のノウハウがむしろ海外でより知られている場合すらある。

中でも医療はその時代遅れぶりが際立ってしまっている。群馬大学では多くの医療事故が起き、問題になった。しかし実態は、どこの病院も変わらないと、関連する役所に勤める人に聞いた。医療業界では、三菱自動車同様、隠蔽するのが常だが、今回、群馬大は「隠蔽が上手にできなかったこと」が問題だったそうである。こうした隠蔽を正当化しようという段階ですでに世間と感覚がずれすぎている。

現状では、大学病院などは、「個人商店の集合」というような段階にある。組織で知識やノウハウを共有したり、全員のレベルを向上したりするための仕組みが未だにまったく知られていない。明治時代の職人社会がいまだに残っているということのようである。隣の医師が何をどこまで知っていて何をやっているのか知らないなどと言っている。

すでに述べたように、医療のように、「すでに分かっていること」を、「枯れた方法」で「間違いなく行う」ことが重要な労働(転写型知識労働、定型的知識労働、技能労働)では、工場の管理手法やサポート業務のような定型的労働を行う組織の管理方法で十分である。定型労働は、失敗しないことが基準である。そのための人事評価も世間では当たり前のように知られている。

医療や原発、農業、などは実質まだ何も手のつけられていない、1930-55年の段階にある。一昔前、二昔前の遅れた欧米流のリーン生産の管理手法を適用するだけでも、たちどころに品質と生産性、われわれの満足度を上げられるだろう。(リーン生産:トヨタ流の工場管理手法)

また、①世界で勝ち続けるセクターと②世界に出て行くことすらできない負け組セクターの間にいる企業・業界が多いのも事実だ。ちょうど1990年くらいで時間が止まっている業界である。そうした業界は、製造品質から設計品質へ、設備生産性から売れるモノを作る設計思考へ、ビジネスプロセスだけではなく、人づくりを含めた仕組み作りを早急に進めなければいけない。世界で商売できる体制を一刻も早く作る必要がある。さもなければやがて市場競争で淘汰され消えていくことになる。

シャープのようになってからでは遅い

〔PHOTO〕gettyimages

シャープを買収したテリー・ゴウFoxconn会長とシャープ新社長に就任した戴正呉、Foxconn副総裁は、シャープを「金持ちの息子のような社風」と述べ、今後は「信賞必罰」を徹底すると述べていた。彼らは別になんの変哲もない当たり前のことを言っている。

しかし、日本国内では、「世界で稼ぐことができない負け組セクター」、「取り残された明治村のようなセクター」では、世界中で当たり前の「信賞必罰」の原則が守られていない。これは、日本人の「堕落した和」「甘えの和」「無責任の和」から来る「ムラシャカイ」の影響かも知れない。

江戸時代から明治時代、肉体労働にもとづいた農業が主力だった時代、付加価値の生み出し方は、人間の頭数に比例していた。二人耕作者がいれば、取れ高は二倍になった。明治から昭和の人海戦術による工場での付加価値生産の時代も本質的には変わらなかった。戦後のMade in Japan の時代が終わり、設計品質で勝負する現代は、成果は人のアタマ数では決まらない。(価値や利益を生み出す)目的的な創造的知的労働の成果物の質が経済的な付加価値を生み出す時代になっているからである。

むかしは、「うまくいけば、全員が頑張った」、「失敗すれば全員が悪かった」で済ませておけば良かった。しかし、いまの経済では、失敗すれば、個人の責任を追及し、成功すればさらに機会を与えて仕事をしてもらわないといけない。当たり前の話だが「信賞必罰」で組織を運営しなければグローバル競争では勝てるわけがない。

まずは、負け組・時代錯誤セクター②の歴代の責任者・管理者に文字通り遡って失敗の責任を取ってもらわねばならない。更迭し、まずは一人一人に遡って、必罰を行う。その上で、新しいリーダーの元で、明治レベルはまず昭和レベルへ、昭和レベルは平成レベルへと至急アップデートしなければならない。大失敗をしているのに、「つつがなく」成功してきたことにしている人達を見つけたらどんどん更迭していかなければならない。反対に功績のあった者には大きく報いるのはもちろんだ。

「何を当たり前な」という人が多いかも知れない。ところが、こうした「信賞必罰」という当たり前の原則を守ることができないのが、グローバル化した経済・社会の中で、実は今、日本社会と日本人の多い組織の最大の弱みとなっている。

当たり前のことができなければ、日本全体が「シャープ化」していくことは間違いない。このままでは海外のマネジメントの下で、日本人は労働力のみを提供する国となる。まずは信賞必罰のうち、必罰するべき人達を徹底的に処分することから始めなければならない。日本全体がシャープ化しないためには、「負け組ニッポン」「下り坂ニッポン」の原因を作り出した日本人を過去にさかのぼって必罰することだ。

言ってしまえば「日本人の敵は日本人」なのだ。スクラップ&ビルドとは文字通りスクラップから始めるのが通常の手順である。それができなければ、日本人の将来への不安は払拭できず、根本的に競争力を取り戻すことができないまま、日本全体がシャープ化していく。

タイミング的にはもう手遅れなくらいなのだ。早急なアクションが必要となっている。「そんなバカな。さすがにそこまでは」という人もいるかも知れない。しかし実際はどうだろうか?

シャープから退職を余儀なくされた人が言っていた。

「会社に入ったときは、まさかウチの会社がこうして中国企業の傘下・子会社になるとは夢にも思っていませんでした。まさにあれよあれよという感じです」

この原因を作ったのも紛れもなくセクター②(世界に出て行くことすらできない負け組セクター)のダメな方の「日本人」である。(日本人だからといって全員同じではない。) あなたの勤務先にも、負け組化を促進する種類の日本人がゴロゴロいるかも知れない。どの組織も①の勝ち組化を促進する人達と②の負け組化を促進する人達が、たいがい勢力を競い合っているものである。善玉菌を増やし、悪玉菌を除去していくことが大切だ。

原因があって結果がある。いま何もしなければ、変化は思っていたよりずっと早く訪れる。「何が」悪かったのか、「誰が」悪かったのか、今すぐにはっきりさせて、アクションしなければ、国家ごとシャープ化していくことは間違いない。シャープのようになってしまってから現状を理解していては、もう遅いのである。

グローバル競争に勝つためには、自社の商品そのものと世界中の市場に対する深い関心を持ち、つよいリーダシップを発揮できる経営者が必要である。まずはチーフ・エンジニア的な素養を備えた人材の獲得または育成が必須であり急務であろう。

工場で勝負する時代はとっくの昔に終わっている。今は「製品開発」の仕組みが競争力の源泉だ。
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酒井 崇男(さかい・たかお)
グローバル・ピープル・ソリューションズ株式会社 代表取締役。東京大学大学院工学系研究科修了。トヨタ流製品開発・原価企画・人材管理に詳しい。人事・組織戦略コンサルタント。米国・欧州のリーン(トヨタ流)製品開発会議(LPPDE)で日本人として初めて基調講演を行う。またスウェーデン・チャルマーズ大学製品開発学科でも講演を行う。新製品開発組織のタレント管理を世界で初めて理論的に体系化した。著著に『「タレント」の時代』『トヨタの強さの秘密』。『トヨタの強さの秘密』は東洋経済ベストセラーで一位となる。