国際・外交
戦争未体験の作家たちは、なぜ今「あの戦争」を描くのか?
戦後70年からの戦争文学
〔PHOTO〕gettyimages

文/木村朗子(津田塾大学教授)

戦争小説リバイバル

太平洋戦争という、一時はすっかり忘却のかなたに追いやられていた「あの戦争」の文学が戦後70年を経て、まるで封印が解かれたかのように続々と現れ出ている。

2015年に戦後70年を迎えたことで、過去の戦争文学がいくつも再刊されただけでなく、「あの戦争」を問い直すような新しい戦争小説も書かれているのである。ここでは2015年から今年にかけて出版された作品を紹介したい。

戦後70年は、広島原爆70年でもあり、長崎原爆70年でもあった。広島で被爆し、8月6日の地獄絵図をつづった詩「原爆小景」や小説「夏の花」を残した原民喜の作品が、『原民喜全詩集』(岩波文庫)、『原民喜戦後全小説』(講談社文芸文庫)としていずれも2015年の夏にあいついで再刊された。

広島、長崎の原子力爆弾の被害は、2011年3月の福島第一原発事故による放射能被害によって、あらためて注目されるようになった。

それまで無自覚にあるいは意識的に異なるものとして分けて考えようとしてきた原子力爆弾と原子力発電が、被ばくという一点でまっすぐに結ばれたのである。いまや反核運動は反核兵器だけでなく、当然のようにして反原発も含み込むようになった。

2016年に入って、やはり広島で被爆した峠三吉の詩集『原爆詩集』(岩波文庫、2016年)が刊行された。巻末には、大江健三郎、アーサー・ビナードの解説がつく。

アーサー・ビナードは解説で、5月27日に広島を訪れたアメリカ大統領バラク・オバマのスピーチの同時通訳をしたこと述べ、そのスピーチが誰でも語れる類の薄っぺらなパフォーマンスだったと批判している。