【追悼・世界の山ちゃん】すべては、パクリからはじまった「幻の手羽先」誕生秘話
社員総会の会場でのカラオケ大会。歌いながら登場した社員が、山本重雄(左)に握手を求める(2010年2月15日)〔PHOTO〕川柳まさ裕(以下同)

それ やまちゃん だー

新しい朝が来た 希望の朝だ/喜びに胸を開け 手羽先揚げろ/太陽の声に すこやかな夢を/この香る風に 世界を/それ やまちゃん だー

総勢162人の社員が起立して社歌を合唱している中、私は一人、唖然としていた。メロディも歌詞も、どう聞いても『ラジオ体操の歌』の替え歌である。これは、本当に「社歌」なのだろうか・・・。

「世界の山ちゃん」の創業者・山本重雄さんが、21日、名古屋市の病院で亡くなられました。享年59。世界に愛され、社員に愛された「山ちゃん」。その追悼として、2010年に公開した「山ちゃんの経営哲学」を追究した記事を再掲載します。

2010年2月15日、名古屋市内で「株式会社エスワイフード」の社員総会が行われた。居酒屋「世界の山ちゃん」(以下、山ちゃん)をチェーン展開する会社と言ったほうが通りがよいだろう。地元・名古屋ではよく知られた居酒屋チェーンだ。ここ数年、東京でも、背中に鳥の羽を生やし、「幻の手羽先」と書かれた旗を持ってピースサインする男が描かれた看板を、目にするようになった。

いまや人気の名古屋メシとなった「幻の手羽先」。山本重雄の柔軟な思考によって、この商品は生まれた

正午から始まる社員総会の30分前に会場である山ちゃんの本丸店(名古屋市中区)のホールに赴いたが、信じがたい光景が広がっていた。平日の午前中から、社員が漁師の恰好で『兄弟船』を、あるいは金髪のかつらを被った女装で『大阪で生まれた女』を熱唱している。そこは、カラオケ大会の会場となっていたのだ。

大きな蝶ネクタイをしたタキシード姿の司会者は、同社の教育本部のマネージャー・藪木寿一だ。社員教育の責任者がコスプレ社員をリードして、会場は爆笑の渦に包まれている。正直、「この会社、相当に変」と呆気に取られたが、まさに「変」であることが、山ちゃんという企業を読み解くキーワードであった。

カラオケ大会が終わると、一転して厳粛な空気に包まれ、社員総会がスタートした。日の丸に向かっての国歌斉唱の後、社員全員で読みあげられたのは、「立派な変人たれ!」というスローガンのもとに謳われた「変宣言」であった。

〈我々は「変」であることを楽しみます/我々は毎日「変」を磨きます/我々はみんなに「変」を伝えます/我々は「変」であることを誇りに思います/我々は「変」な人たちを愛します/我々は「変」でみんなを幸せにします/我々は「変」で世界を変えていきます〉

山ちゃんの社員は、この宣言文が掲載された「変人パスポート」を常に携行することを義務づけられている。エスワイフードの社長・山本裕志(50)は、「変人」の意味について、こう説明した。

「弊社の目指す『変』という言葉には、『ユニークで面白いこと』と『変化していくこと』の二つの意味があります。お客さまに満足してもらうため『明るく、元気に、ちょっと変』を追求しているのです」