週刊現代
阿川佐和子、「強烈な父の思い出」を明かす~外では紳士、家では暴君
故・阿川弘之氏の大往生から1年

取材・文/丸山あかね

理不尽なエピソードの連続

―本書は、昨年の8月3日に94歳で永眠されたお父様(作家の阿川弘之氏)と過ごした62年間を振り返って綴られた1冊です。故人について回顧して書かれた本というと、しんみりとした内容を連想しがちですが、帯には「破天荒な父がアガワを泣かした34の言葉」とあり、その辛辣な言葉が小見出しに並んでいます。

生前、父は「いいか、俺が死んで出版社などから『故人について書かないか』と依頼を受けても、『父は立派な人でした』などとは絶対に書くなよ。身内が身内を褒めるほど、みっともないことはないからな。わかったな!」と、息まいておりました。つまり「俺を褒めるな」は、父の遺言なのです。

また、「通夜、葬式はするな。香典や花も受け取るな。偲ぶ会も絶対にするなよ」とも言っていたのですが、こちらのほうは、たくさんのお悔みをいただいて何もしないわけにもいかず、偲ぶ会まできっちりやりました。さぞかし父は怒っていることでしょう。そこで本に関しては、決して褒めないという約束を守ることにしたのです。

―褒めないどころか、どんなに理不尽な人だったかというエピソードが延々と続きます。これは酷いと驚愕の連続です。

……でしょう(笑)。周囲の方から「佐和子さんは一人娘だから、さぞかし、お父様に溺愛されているのでしょうねぇ」などと言われて育ってきたんですが、それは大いなる誤解だと、もどかしさをいつも抱きつつ生きていました。

いつ叱られるかと常にビクビクしていたし、反抗などしようものなら、赤鬼のような形相で「出ていけ!」と一蹴。さらに「のたれ死のうが、女郎屋に行こうが勝手にしろ!」と続きます。

果ては私を庇った母に対しても、「おまえは佐和子の味方をするのか!」と父の怒りが飛び火し、我が家は修羅場と化す。この繰り返しですから、娘時代はいつも、どうしたら父から逃れることができるのかと考えていたし、実際に家出をしたこともありました。

ところが、こういう話を友達にすると、みんな一様に面白がるんですね。だって他人事だから。おかげで、自分の置かれている状況を客観的に見れば、楽になるんだということに気づくんですよね。

子供の頃は、文筆業に携わることだけは避けたいと考えていたので、いつか書いてやろうなどという企みは抱いていなかったのですが、どういうわけだか、私は父と同じように書くことを生業とするようになりました。こうなると、強烈な逸話の数々を残してくれた父でよかったのかなと思わなくもない。「父ちゃんのことを書いて、儲けさせてもらうことにしました」と報告しなければいけないでしょうね(笑)。