ミステリーの傑作「万能鑑定士Q」シリーズ最終作の読みどころを徹底解説!
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文/吉田大助(書評家・ライター)

堂々たる「謎」と「解決」

松岡圭祐の筆が加速している。今年、講談社文庫・五冊目の刊行となる最新作『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの〈叫び〉』(書下ろし)は、あらゆる芸術品の真贋をジャッジする、驚異の鑑定眼を持つ凜田莉子が主人公のミステリ・シリーズ最終巻だ。二〇一四年には綾瀬はるか主演で映画化もされ、既刊二〇巻(角川文庫より刊行)で累計四三〇万部を突破している。

物語の幕開けは、別離だ。鑑定から始まるさまざまな事件で、凜田莉子をサポートし続けてきた『週刊角川』の記者・小笠原悠斗。二三歳と二六歳、一度は恋仲になった二人だったが、悠斗が反対を押し切って探偵業に転職したことから、お互いの価値観の違いを知った。しかも悠斗は、幼馴染みの三木本沙彩と距離を縮めつつある。「好きだったよ」。莉子が告げる過去形を、悠斗は受け止めることしかできなかった。とびきりせつないオープニングだ。そして、本編が動き出す。

ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクの絵画『叫び』は、一九九四年と二〇〇四年に盗まれ、のちに奪還された過去を持つ。その経緯をまとめたうえで、稀代のストーリーテラー・松岡圭祐は「三度目」を想像=創造した。二〇一六年夏、南青山の画廊で『叫び』が盗まれた。ノルウェー政府関係者は、かつて『モナ・リザ』盗難事件を解決した凜田莉子に捜査協力を依頼しようとするが……莉子は鑑定士の看板を下ろし、リサイクルショップの店員として働いていた。

お店の買い取りコーナーで、おばちゃん相手に鋭い鑑定眼を披露する莉子の姿が、なんだかおかしい。お姫様がおしのびで町娘に……的な、ギャップによる笑いが見事に炸裂している。とはいえお姫様を、周囲が放っておくわけもなく、明治二九年に四個だけ製作された懐中時計や寛永時代の信楽茶碗など、真贋鑑定の依頼が次々に舞い込む。

ミステリの「謎と解決」が矢継ぎ早に連鎖する、連作短編の味わいもある。合間合間には、「灰のにおいはレモン汁で落とせる」などトリビアルな雑学知識も大挙登場。松岡圭祐のおもてなし精神は、今作でも健在だ。

やがて莉子は、犯人の手により縦横に破られ、四つの断片になった『叫び』を回収するための「ゲーム」に参加させられることになる。修復が可能なタイムリミットは、百二十時間。探偵修業中の悠斗も応援に駆けつける。そして、冒頭から提示されていた謎が、色濃く輪郭付けられ再提示される──誰が『叫び』を盗んだのか?

シリーズ最終巻にふさわしい、堂々たる「謎と解決」だ。