週刊現代
日本人が、命を投げ打ってでも仕事を遂行する理由がこれで分かった!〜三浦綾子の名著にみる、「この国の職業倫理」
佐藤勝の「名著コロシアム」第3回
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中学時代にもっとも強い感銘を受けた1冊

筆者は7月30日、北海道の旭川市公会堂で「『塩狩峠』と私」と題する講演をした。中学生時代に読んだ本の中で筆者はこの小説にもっとも強い感銘を受け、中学3年生の春休みに、北海道を一人旅して塩狩峠を訪れたことがある。『塩狩峠』は、三浦綾子の代表作だが、この小説の元になった出来事があるという。

塩狩峠は天塩と石狩の間にある険しい峠だ。宗谷本線が通っている。1909(明治42)年2月28日の夜、塩狩峠にさしかかった上り列車の最後尾客車の連結器が外れ、後退をはじめた。偶然乗り合わせていた鉄道職員の長野政雄が線路に身を投げ出して下敷きになることによって客車を止め、乗客は救われた。長野政雄は旭川六条教会(同志社大学系統の組合教会)に所属するプロテスタントのキリスト教徒だった。

三浦綾子は、長野政雄の犠牲死に触発され、『塩狩峠』において永野信夫という人物を創る。信夫は東京生まれで、10歳まで祖母のもとで育つ。キリスト教徒の母が祖母と仲が悪く、家を飛び出してしまったからだ。

祖母の死後、母といっしょに暮らすようになったが、キリスト教については違和感を持ち続けた。信夫には小学校時代からの親友の吉川修がいる。吉川一家は、借金を抱え北海道に夜逃げしてしまう。信夫も父を失い裁判所職員として勤務している。仕事ぶりも真面目で判任官(現在でいうノンキャリアの国家公務員)に昇任する。

10年ぶりに吉川が東京を訪れ、信夫と再会する。このことにより信夫の運命が変わる。信夫は、北海道で鉄道会社の事務職として勤務するようになる。吉川には、ふじ子という妹がいる。ふじ子は、足に障害があり、肺病にかかっている。信夫はふじ子に好意を寄せる。そのときに吉川から、ふじ子がキリスト教徒だということを告げられる。そこでもう一度、キリスト教について真剣に考える。