週刊現代
いまだ語り尽くされないヒロシマ「空白の戦後史」
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暗闇に埋もれていた小さな町の戦後史

米大統領が広島を訪れた今年、この街との向き合い方を考えるきっかけがここにある

ことし5月、広島は季節外れの注目を集めた。現役のアメリカ大統領、オバマ氏の来訪だ。世紀の瞬間を見届けようと、ある大手新聞社は一社だけで記者50人以上が平和記念公園に殺到したという。報道の最大瞬間風速はかなりのものだった。

あれから3ヵ月。広島に大挙して訪れた記者たちが、これといって熱心に続報を書いているわけでもない。ただ来ただけなら、野次馬と同じか。そんな大手メディアのあり様とは対照的に、広島に通い、地道に発信を続ける人たちがいる。

大塚茂樹著『原爆にも部落差別にも負けなかった人びと』は、謂れなき差別を受けてきた、広島市内のかつての被差別部落が舞台だ。この町には朝鮮半島出身者が多い。

中でも、町内の民家に立ち上がる「野戦病院のような診療所」の歩みは壮絶だ。医師は手弁当で奔走し、貧困や被爆の後遺症に苦しむ患者たちに向きあった。町民が苦しい生活の中から出資金を出しあい支えてきた診療所は、約60年が経った今、市内全域から患者が集まる大病院になった。日本による侵略によって土地を奪われ、移住を余儀なくされた人たち。その多くが被爆した。

これでもかというほどの不条理に晒されてきた町民の証言から、暗闇に埋もれていた小さな町の戦後史を照らし出した。

著者は関東在住の元出版社社員。この地区の歴史を書き残すことを自らに課し、退職後3年間、広島に通った。とことん歩き、人づてに次なる対象を探して証言を積み重ねた本書は、脚色とは無縁の奇をてらわぬドキュメントである。