トルコのクーデターは何の「前兆」なのか? いよいよ複雑怪奇化する世界情勢
ドイツとの不穏な挑発合戦
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7月15日、トルコで青天の霹靂のようにクーデターが起こった。

そのニュースがドイツで大々的に流れ始めたのが夜の10時頃。ドイツにはトルコ系移民が300万人も暮らすため、トルコは常に身近な存在だ。美しい地中海の沿岸で休暇を過ごすドイツ人も多い。したがって、クーデターのニュースは、週末気分でくつろいでいたドイツ人に大きな衝撃を与えた。

エルドアン政権に不満を持つ軍の分子が起こしたと言われるクーデターは、しかし、あっけないほどすぐに制圧された。

そして、この時点でのドイツ政府の意見は、クーデター側を非難するものだった。クーデターは、民主主義で選ばれたエルドアン政権の転覆を狙った悪辣なものとされた。つまり、ドイツ政府のエルドアン政権支持が確認されたのである。

ところが、まもなくエルドアン大統領は、反政府勢力を次々に粛清し始めた。それに伴い、ドイツ政府は速やかにポジションを変えた。21日、トルコ議会は非常事態宣言を承認し、大統領権限をさらに強化した。同日、それに対してメルケル首相が「大きな懸念」を表明し、それはエルドアン政権への批判と解釈された。

ドイツメディアによれば、現在トルコは、民主主義国家から独裁国家に変貌している最中なのである。

エルドアン大統領の最大の敵

エルドアン大統領が非常事態を宣言してまで熱心に粛清しているのは、イスラム教の指導者フェトフッラー・ギュレン師のシンパだ。

ギュレン師というのは、元はイスラムのイマームだったが、80年代より政治に加わり、一時はエルドアン氏の同志でもあった。その後、袂を分かち、アメリカに亡命したのが1999年。今ではエルドアン大統領の最大の敵だ。

世界中でギュレン師のシンパの数は、800万人とも1000万人とも言われている。ドイツにも、もちろん大勢いる。

ギュレン師の活動や信条についての情報は、私が得られる範囲では矛盾しているものが多い。彼は世俗主義者で、政教分離が原則のはずのトルコでエルドアン大統領がイスラム宗教色を強めたことに強く反発しているという説があるかと思うと、一方で、実は彼はイスラム原理主義者で、いずれトルコを乗っ取って過激なイスラム教国にする意図を隠し持つという説まで、種々多様だ。

ただ、事実だけを述べるとするなら、ギュレン師は教育に重きを置き、90年代、私立学校や学生寮などを、まずはカザフスタン、キルギスタン、ウズベ キスタン、トルクメニスタンといった旧ソ連邦に作り始めた。

今では大学をも含めた各種教育機関を、世界のあちこちに1000校も経営する。師のシンパには知識層が多いといわれるが、彼の経営する学校がエリート養成を目的とした私立校であることを鑑みれば、これは不思議なことではないだろう。

ギュレン師の影響力は教育部門だけではない。彼は病院、通信社、銀行、保険会社、出版社をも所有する。彼所有のラジオ局やテレビ局は、今やトルコだけでなく、多くの国に拠点を持つ。また、トルコで一番読まれているZaman新聞も彼の会社だ。つまり、報道におけるギュレン師の影響力も甚大なのである。

ただ疑問は、どこからこれらの資金が出ているのかということだ。本人はアメリカに住み、西側メディアとの折り合いも良い。しかし残念ながら、それ以上の詳細について論じる十分な情報を、私は持たない。未だに謎の多い人物なのである。