「私は奴らに殺されかけた」ある日本人資産家の告白~『プライベートバンカー』その知られざる正体
シンガポールの名所マーライオンの向こうに金融街のビル群が見える〔PHOTO〕gettyimages

文:ジャーナリスト 清武英利

節税のため海外移住する富裕層の資産運用を担うプライベートバンカー。その中には超えてはいけない一線を踏み越える者もいた。近著『プライベートバンカー』でその闇を追った著者が内実に肉薄する。

カネ持ちの年寄りを狙う

100万ドルを詐取された資産家は、バンコク・スワンナプーム空港にサンダルを突っ掛け、娘の手を引いて現れた。

油っ気のない白髪に白いひげ。洗いざらしの半袖シャツを第二ボタンまで開けている。小学生の娘はピンクウサギの着ぐるみ風ウェアを着て、古希を超えた父親の腕にぶら下がり、無邪気にまとわりついて声を上げた。どこにでも連れていく、たった一人の肉親である。

空港の駐車場にはメルセデスベンツの四人乗りオープンカーが停めてあった。銀色に輝くカブリオレを見るまで、この二人が約20億円の金融資産を抱える富裕層だとはどうしても信じられなかった。

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彼は究極の節税手法を知って、2004年に日本で経営していた病院を売り払い、タイに移住してきている。チェンマイで現地女性と再婚し、初めて子供を授かったが、妻はオランダ人に寝取られてしまったのだという。

「まだまだ頑張らないといけないのですね」

私が声をかけると、元病院長はハンドルを切りながら話を引き取った。

「娘がまだ幼いのでね。私が死んだらいろんな人間が寄ってたかって(財産を)取りにきますよ。何をされるかわからない、そんなのがウヨウヨいるんです。だから、長生きをせざるを得ない。とにかく全力を尽くして長生きをせざるを得ないんです。係累がいるということは、本当に大切なことなんですね。ところが、私にはその信じられる人がいない」