国家・民族
佐藤優が斬る!「天皇陛下『生前退位』リーク報道は、ココがおかしい」
7月14日の各紙の朝刊

7月14日、ほぼすべての新聞社が“天皇陛下「生前退位」のご意向示す”と一面トップで報じ、日本中に激震が走った。この報道に関し各所でさまざまな憶測がされるなか、佐藤優氏は「この話自体が、完全におかしい」と主張。その真意を明かす。

※本記事は、『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』に収録している文化放送「くにまる・じゃぱん」の放送内容(2016年7月15日放送)の一部抜粋です。

新聞の倫理が問われている

西川文野: 天皇陛下が生前退位のご意向を示されていることについて、政府は早ければ来年の通常国会で皇室典範の改正を含めた法整備を行う方向で調整に入りました。これは複数の政府関係者が明らかにしたものです。現在の皇室典範には生前退位の定めがないための措置で、政府は今年の12月23日の天皇誕生日を目途に骨子案をまとめたい考えです。

一方、天皇陛下が生前退位のご意向を周囲に示されたことを巡り、宮内庁が近く陛下に自らお気持ちを表明してもらう方向で検討していることがわかりました。「宮内庁関係者」の話でわかったもので、政府として陛下の考えを広く国民に理解してもらって初めて議論がスタートできると判断し、異例の対応をとることにしたと見られます。

野村邦丸(以下邦丸): 昨日(7月14日)も伊藤惇夫さんにお話をしていただいたんですが、なるほどなと思うのは、天皇のご意向というものが、たとえば政府を動かすということになると、政治にはかかわらないという大原則から、これは憲法に触れる可能性もある。

佐藤優(以下佐藤優): 完全に憲法に触れています。

邦丸: はい。

佐藤: それから今回、話が完全におかしいです。

邦丸: どこが、おかしいのでしょうか。

佐藤: どうしてかというと、宮内庁長官も宮内庁次長もその日のうちに「陛下は憲法上、制度や国政に関する発言はしていない」「生前退位について官邸と相談しているということはない」と否定していますよね。この否定記事は朝日新聞には小さく出ていましたが、ほかすべて、「ご意向がある」ということが一面に出ているんですね。その場合は、ニュースソースを明示しないといけないんです。

邦丸: はい。

佐藤: それを明示せずに「宮内庁関係者」としている。宮内庁は組織ですよね。組織は一体で、その最高責任者が「発言はしていない」「相談しているということはない」と言っているのならば、新聞各紙は「ない」ことを一面で報じていることになるわけですよね。

その場合は情報源が「宮内庁関係者」という匿名ではダメなんです。なぜかというと、宮内庁の長官が「否定していること」が事実だ、宮内庁長官はウソをついている、とすべての新聞が報じていることになるわけですから、その根拠となる情報源が匿名の下に隠れてはいけないんですよ。

佐藤: 私は宮内庁長官や宮内庁次長がウソをつくことはないと考えています。ただ、宮内庁にはもう一つのルートがあるんです。いわゆる奥の院と言われている侍従長です。

邦丸: はい。侍従長というのは陛下のすぐそばにいつもいらっしゃる。

佐藤: そうです。表には出てこないことになっている現在の侍従長は、元外務事務次官の河相周夫(かわい・ちかお)さんです。長官と次長が「否定していることが事実ではない」というのなら、新聞はその裏を取らなければ記事にはできません。少なくともこの侍従長に当てて、実名でそれを書かなくてはいけないんです。

邦丸: なるほど。

佐藤: そうじゃないと、たとえば仮に「どうやら憲法改正のご意向があられるようだ」という形のニュースがどこからともなく宮内庁関係者から出るとする。そして宮内庁長官と次長がそれを否定しているとする。しかし、本当はそういうご意向があるんだということで憲法改正に動くとは考えられないわけですよ。

いわゆる天の声をこういう形で出すことで物事を進めようとしているのは、今の一部の宮内庁の人たち──つまり、外務省出身の人たちの動きだと思いますけれど、国家の民主的な統制からすると、ものすごく違和感がありますね。

陛下は内閣の助言と承認によって動かれるんですけれども、もし、憲法改正のご意向を持っておられるんだったら、内閣が責任を持って、宮内庁長官の会見で「陛下には、ご意向がある」として、それを踏まえて内閣の立場として菅官房長官が説明すればいいんです。

ですから、ご意向を示してもらう機会は、内閣が内閣の意志でつくる。それができるはずなんです。しかし、なぜ、これがリークで始まるのか。

また、なぜ宮内庁長官と次長が公式に否定していることが新聞のトップニュースになって、それが事実として動いていくのか。私はここのところで新聞の倫理が問われたと思います。新聞の人たちはニュースソースを知っているわけですから。

宮内庁長官が「ノーコメント」とか「公には申し上げられません」と否定していないのだったらいいんですが、明確に「そのような事実はない」と言っているんですから、「ない」と言っていることを「ある」と報道したことに対して、誰も違和感を覚えないということは、マスコミが政府に「ウソをついても構わないんですよ」と言っているのと同じことなんですよね。

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