あなたには、国のために死ぬ覚悟がありますか?~自衛隊「特殊部隊」創設者と「紛争解決人」が悩み抜いた末に出した答え
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今も夢に出る東チモールの惨劇

戦闘のプロフェッショナルと、紛争解決のプロフェッショナル。異色の二人が、ここに出逢った――。

自衛隊初の特殊部隊「海上自衛隊特別警備隊」の創設者の一人で、退官後はミンダナオ島に拠点を移し、日本を含む各国警察、軍隊に指導を行ってきた伊藤祐靖氏。国連職員などを経て、東チモールやアフガニスタンの紛争解決に取り組んできた伊勢﨑賢治氏(現東京外国語大学教授)。

命をかけて国のために任務を遂行してきた二人が、憲法改正の現実味が増す中で、PKOの現実、そして憲法改正について語り尽くす。

伊勢﨑:伊藤さんの最新作(『国のために死ねるか』文春新書)を読んで驚いたのは、よくもまあ、細かいことまで覚えているなあ、と(笑)。冒頭、伊藤さんの乗った護衛艦が不審船に向って威嚇射撃をするシーンが出てきますけど、あんな混乱した状況なのに、自分の行動だけじゃなく、艦長や他の乗組員と交わしたやりとりも、じつに細かく覚えていて、再現している。僕は全然ダメ。過去のことは忘却するばかり……。

伊藤:私の場合、動画のようなものが頭に残る性質なんです。あのときのことを思い出すと、ああ、月はこっちに出ていたな、とか、その月にどんな雲がかかっていたな、と。場合によっては、匂いまで覚えています。

伊勢﨑:僕は、20代から、国際組織の現場の長をやらされ、どういうわけか、そこが戦争状態になったりして、その中で下した命令が部下の命を犠牲にすることを繰り返してきました。精神的な防御本能なのでしょうか、つらいことはどんどん忘れるんです。

ただ、ふとしたとき、思い出すんですよ。東北大震災からまだ1年もたっていないころ、被災した福島高校の生徒たち10数名と、延べ5日間の集中授業をしたんです。本の出版企画です。この子たち、肉親を失った子もいて、ある意味、地獄と、政府や社会の〝本性〟を見てしまった。震災の悲劇に加えて、「放射能差別」が始まった時でしたから。

そんな子供たちと何日も一緒にいて、いろんなことを話していたら、お互いどんどん裸になっていって、僕の方も自分の過去を語るにつれ忘れていたことを思い出した。それ以来、東チモールでのPKOのことだけは、結構、夢に見ます。

伊藤:東チモールでは何があったのですか?

伊勢﨑:東チモールは1999年にインドネシアの占領から独立しようとしたのですが、独立反対派の民兵との間で内戦状態になって焦土と化し、その内戦の終結と戦後復興のためPKOが派遣されました。国連が暫定的に主権を預かり暫定統治を敷くんですが、僕は幹部として、独立反対派が潜伏するインドネシア領西チモールとの国境に接する県の県知事に任命されたのです。僕の下には、ニュージーランド陸軍歩兵大隊とパキスタン陸軍工兵大隊、計2個大隊約1200名が置かれたのです。

当時の東チモールの中で最も緊張した現場だったのですが、ある日、国境線を越えて独立反対派の10数名民兵部隊が侵入してきた。そして、国境付近のジャングルをパトロールしていたニュージーランドの分隊と遭遇、銃撃戦になるんです。そして、その中で一番若い、まだ20歳の兵士がMIA(戦闘中行方不明)に。翌日、惨殺されて発見されるのです。両耳が削がれて無くなっていました。続いて、ニュージーランド大隊の下に派遣されていたネパール中隊の兵士一名も同じように殉職。

ここで、僕たちには、今でも思い出しますが、怒りで烈火のような復讐心が生まれました。特に、ニュージーランド大隊の隊長は平常心を失い心身ともにボロボロに。ニュージーランドって、本当に平和な島国なんです。特に、陸軍は近代において戦争らしい戦争なんてしたことがないと思いますよ。つまり、慣れていない。隊長は僕に、戦闘許可を求めてきました。

当時のPKO部隊には、「平時」は緊急回避や自己防衛といった基本、警察行動の武器使用しか認められていません。それが「戦時」に切り替わると、戦時国際法/国際人道法上の「交戦」の武器使用となる。つまり、「犯罪者」として捕獲するのではなく、交戦の「敵」として、同法に則って殲滅する。この瞬間から民兵は合法的な殲滅対象になるのです。民兵も東チモール人です。一般住民との区別は難しい。大変なリスクでしたが、その許可を僕は出したのです。

結果、10数名人の民兵たちを1カ月半以上、武装ヘリまで使って追い詰め、補給を絶たれヨレヨレになったところを全員射殺しました。捕獲はリスクをとればできたでしょうが、全員射殺したのです。僕は何人かの死体検分に立ち会いましたが、外見は、普通のアンチャンと変わりない。これが夢に出るのです。

国連のホームページを見ると、PKOで殉職した国連要員は公開していますが、PKOが殺した人数はありません。しかし、実際には、たくさん殺しているんです。国際法上では合法なんで、仕方がないといえば仕方がないのですが……。