歴史の闇に消えた「戦前」のテレビ文化〜髪が焦げるほどの照明、戦車のようなカメラ、スタッフは全員白衣…
日本初のテレビドラマの真実
〔photo〕iStock

文/森田創(ノンフィクション作家)

 歴史の闇に消えた戦前のテレビ史

「日本で初めてのテレビドラマは、いつ放送されたか?」

教養のある方ならかえって、このクイズには正解できないかもしれない。

なぜならその答えは、教科書的な常識とかけ離れているからだ。

その重要なヒントとなる映像が、これだ。

白衣を着た男たちが、画面や計器が埋め込まれたモニタールームで、画像の調整にかかり切りになっている。これは、昭和30年代のSF映画でもなければ、潜水艦内部の秘蔵映像でもない。

これは、昭和15(1940)年2月に行われたテレビジョン実験放送のひとコマである。テレビと言えば戦後という先入観しかなかった私たちにとって、その鮮やかな受像画像や洗練されたモニタールームなど、一つ一つが驚きである。

日本で初めてのテレビドラマは、その2ヵ月後、昭和15年4月13日に放送された。

75年前の真珠湾攻撃の日の朝まで実験放送を行うなど、戦前のテレビは実用化寸前の段階に達していたが、日米開戦と同時に、世界レベルの技術力を持つテレビ研究者は、レーダーなど電波兵器の開発に駆り出され、輝かしい戦前のテレビ史は歴史の闇に消えた。

日本史の授業は、満州事変あたりでアクセルを踏み、昭和20年8月の敗戦までを高速道路のように駆け抜ける。戦前の昭和は、軍靴に踏み均された暗黒の時代として処理されるのが常で、洗練されたファッションや文化、テレビなどの先端技術が花開いた、好景気による活気と華やぎに満ちた時代であったことを教えはしない。

戦後の日本は、戦前の総否定から始まった。素晴らしい戦前の文化や記憶は、「戦前=暗黒」というステレオタイプな歴史観を押し付けられることで、どこかへ消えてしまった。