週刊現代
佐藤優の「名著コロシアム」第一回『坊っちゃん』は「痛快バイオレンス小説」である
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日本人の読書離れが言われて久しい。特に若者が本を読まなくなったという。筆者の皮膚感覚は少し異なる。過去20年、所得や情報についても、格差が拡大しているが、読書についても、それ以上に格差が拡大しているのである。若者でも、本を読む人と本を読まない人が、はっきりと分かれている。

この連載では、ビジネスパーソンにとって、読書が、仕事と人生を勝ち抜いて行く上で、役に立つツールであることを説明したい。

夏目漱石『坊っちゃん』
1906年(明治39年)発表
文春文庫、新潮文庫、岩波文庫、講談社青い鳥文庫ほか >> Amazonはこちら
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第一回で取りあげるのは、夏目漱石(1867~1916年)の『坊っちゃん』(初出1906年)だ。今の日本で、文豪と言われている人の中で、誰もが名前を知っているのは、漱石だけになってしまった。若者と話をしていて、森鴎外や谷崎潤一郎の名前を読者が出しても、「そんな人知らない」と言われる可能性が高い(筆者の経験では9割)。しかし、漱石ならば、「知らない」と答える人は、まずいない。

それは、中学校か高校の教科書で、漱石作品の抜粋を読んでいるからだ。もし、部下が漱石について全く知らなかったならば、そういう人を使うときは注意しなくてはならない。集中して机に向かう訓練ができていないか、記憶力がよくない、あるいはその二つであるからだ。

『坊っちゃん』は、すがすがしい青春小説と読まれることが多いが、その見方は少し違うと思う。中堅のエリートが、気にくわない超一流大学出身の超エリートを暴力で叩きのめすというバイオレンス小説なのだ。

主人公の「坊っちゃん」は、両親を失い、分与された600円(現在の貨幣価値で600万円くらい)の遺産で、今後の生活の基盤を作らなくてはならない。坊っちゃんが選択したのは、物理学校(東京理科大学の前身)に入学することだった。