週刊現代
外にばかりに意識が向けられる時代。求めるものがわからない時は「詩」を読めばいい

作家・下重暁子さんの人生ベスト10冊
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自分の心の奥底を知りたくて

読書に目覚めたのは、結核で寝ていた小学2年生から3年生の頃でした。大した病状ではなかったのですが、2年間隔離され、学校に行けなかった。でも退屈はしなかったんです。父の書斎から毎日1冊本を取り出して眺めていたから。

芥川龍之介や太宰治、宮沢賢治など、意味はわからないのに、どれだけ眺めていても飽きませんでした。当時はイメージや妄想が膨らむ物語が好きでしたね。

中学生になると詩を読むようになりました。すでにこの頃、自分を確立していたように感じます。以来、私が好きなのは、理屈で考えるよりも、生理的、音楽的な詩や小説で、筋を追っていくような話はあまり好みではありません。ここでは詩人の中でも特別な萩原朔太郎の全集を1位に挙げました。

朔太郎の作品には、〈好き〉という言葉は合いません。どうしようもなく〈惹かれる〉んです。ではなぜ惹かれるのだろうと考えることはすなわち、自分を知ることです。それを私は自分を〈掘る〉と言いますが、自分を掘っていくと、底に嫌な自分を見つけたり、思いがけない本質に出会ったりする。そうやって自らの内面に降りていくことを教えてくれたのが朔太郎でした。

いまは外側ばかりに目が向けられる時代だと思います。外からの知識を得るために読書をする人も多い。けれど、私は逆。自分の内側を知りたいから本を読むし、自分の内面にしか興味がない。

ちなみに卒論も朔太郎でした。タイトルは「萩原朔太郎における下向の精神」。卒論を書くときに学問的裏付けとして読み込んだのが2位に挙げた『明治大正詩史』です。日夏耿之介さんの詩も好きだったから、この本の詩観に拠ったのです。

日夏さんについては忘れがたい思い出があります。晩年、脳溢血の発作で倒れた日夏さんは、長野県の飯田市で暮らしていました。たまたま講演で飯田に行った私は主催者に頼んで、日夏さんのご自宅に連れていっていただいたのです。なんと玄関で日夏さんの口頭試問を受けました。

「君はどの詩人が好きか」
「萩原朔太郎です」
「次は誰か」
「北原白秋です」
「あがりたまえ」

どうやら合格したようで、家に通していただき、天竜川を見下ろす部屋で、色んなお話をしてくださいました。

小説は比較的短い物が好きです。『三島由紀夫短篇全集』は本当にいい。中でも若いカップルの別れの一コマを描いた「雨のなかの噴水」は傑作です。男女の複雑な機微を、どうしたらこの短いページの中で、詩的に描き尽くせるのだろうかと、思わず私は原稿用紙に書き写しました。マルも点も書き写しているうちに、三島の息遣いが伝わってくるような気がしましたね。