週刊現代 日本
作家・浅田次郎が語る「戦争の手触り」〜戦争を描くことは"使命"だと思っています
戦後広島を訪れた昭和天皇〔PHOTO〕gettyimages

閉ざしてはいけない「負の歴史」

―このたび上梓された『帰郷』は太平洋戦争をテーマに全6編を収録した短編集です。これまでにも『終わらざる夏』をはじめ、浅田さんは多くの戦争小説を発表し、ライフワークだと公言していますね。

辛い話は読みたくなくても、誰かが書かなければいけないことでしょう。僕は昭和26年生まれなので戦争は直接知らないけど、父が戦争に行った世代なんです。母も戦時中は勤労動員されていた。戦争の手触りは感じている。だから書くことはできるんじゃないかと。

浅田次郎さん

戦争を書くことは自分の使命だと思っています。

―最初に収録された表題作は、戦争が終わって懐かしい故郷に帰ってきた男が予想外の悲劇に見舞われます。

こういうことは実際にあったと思いますよ。昭和20年8月15日の終戦の時点で、陸軍だけで500万人以上の兵隊がいたわけだから。生死不明の人もいれば、間違って戦死公報が届けられた人もいたでしょう。

軍隊は原則的にどこで戦っているか国民には知らされていない。輸送船で運ばれる兵隊ですら、どこに連れていかれるのか知らない。まして故郷にいる人は、玉砕したと聞けば、「みんな死んでしまったんだろうな」としか考えられないでしょう。

こういう目に遭った人がその後どうやって生きていったのか……。戦争のドサクサで「なかったこと」にされたことはたくさんあったと思います。

戦後は復員兵と街娼があふれていたのに、「悪い過去」を語る人はいない。僕の両親も戦争の話はしなかった。楽しかった思い出は話しても、辛かった話はけっしてしないんです。「負の歴史」というのは、語り継いでいかないと、そうやって消えてしまうんです。