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長く愛される「箱モノ」のつくりかた〜東京五輪、本当に大丈夫ですか?
環境建築家・仙田満の発想に学べ
水鳥が運河から飛び立つイメージの辰巳国際水泳場。左を走るJR京葉線の乗客からもプールが見え、好奇心を掻き立てる仕掛けがされている〔photo〕藤塚光政(以下付記ないものはすべて)

1,647億円もの巨額総工費が掛けられ東京・有楽町の都庁跡地に完成した公的総合文化施設「東京国際フォーラム」を筆頭に、1980年代から90年代のバブル期には、国家機関の施設のみならず、全国の自治体で競うかのように「箱モノ」と呼ばれる多くの公共施設が建設された。

そして、その箱モノと呼ばれた公共施設は、バブル崩壊とともに利用度が振るわなくなり、経済的自立が適わなかったことから閉館・建物解体の憂き目に遭った施設も少なくはない。

酷い例では竣工から30年も経たないうちに巨額の修繕費用が掛かることが発覚、その修繕費を厚労省の予算で賄えず、惜しまれて閉館してしまった東京・青山の児童館「こどもの城」のような例もある。年間約80万人もの来場者があっただけに本当に残念な話だ。

もう一度行ってみよう

環境建築家・仙田満氏は、それらの事情を踏まえ近著『人が集まる建築』でこう断言する。

仮にどれほど多くのコストを掛けて豪華な仕様の施設を作ったとしても、建物の耐久性やその後に掛かる維持費、その施設の周りの環境や歴史に配慮し、利用者の目線で極力飽きのこない設計思想がなければ、たとえ短期的に集客は出来たとしても、長期にわたって人が集まる場所には決してなりえない、と。

さらに仙田氏はこう付け加える。

「面白そうだ⇒実際に行ってみよう⇒やってみた⇒満足した⇒感動した⇒もう一度行ってみよう」、このような利用者に何度も足を運んでもらう好循環なサイクルが生まれる建築デザインを最初から意図して作り上げなければ、長く愛される場所には絶対になることはない、と。

例えば今年4月にリオデジャネイロ五輪競技大会代表選手選考会を行うなど、世界レベルの大会を多く開催する仙田氏が設計を担当した「東京辰巳国際水泳場」(開場1993年。2020年の東京五輪では水球会場となる)を例にとると、建築予定地が砂町運河沿いという環境を考慮したことで、水鳥が水辺から飛び立つ姿をイメージした斬新な建物のデザインとした。

しかし、その建設予定地が国道から離れた人通りの少ない、さらに見渡しの悪い奥まった場所にあったため、その美しい巨大な水鳥を模した建物の姿を公に晒すことが難しかった。

そこで仙田氏は、その近くを通るJR京葉線に目をつけ、その車窓から最も見栄えのする角度に建物を配置し、しかもJR京葉線側のファサードをガラスウォールとし、その車窓から50mのプールを視界にはっきり捉えられるように設計をした。

そのため、あえてJR京葉線側にその眺めを遮る観客席を作っていない。これによってJR京葉線の乗客たちはその水鳥を模した美しい建物の姿に目を留め、それがプールであることを認識し、ガラスウォールの向こうで泳いでいるスイマーたちの姿を見つけ、「あれはプールなのか。面白そうだ。ぜひ行ってみよう」という来館促進の流れを意図的に作ったというわけである。

運河の景観を生かし、JRからも覗き込めるよう、あえて観客席を左右非対称にして窓を大きくとった辰巳国際水泳場

さらに水泳場館内では、建物奥側に設置された階段状の観客席やプールサイドからは、前述した通りガラスウォール側に観客席がないため、プールと砂町運河が連続する壮大なパノラマを望むことができるようになっている。

その上、50 mの競技用プールでは水泳競技で最も感動を生む「新記録」が生まれやすいように、より速く泳ぐことできる工夫や設計が随所に散りばめられている。そして、その好記録が利用者や来場者の再訪を促すという結果に繋がっているというわけなのだ。

このように周囲の環境や歴史といった大きなフレームで捉えたランドスケープデザインや外観デザインを構想し、その施設内にターゲットとなる利用者の特性を加味した遊環構造を設定する。

例えば利用者を子供たちに設定するなら、シンボル性の高い空間や場といったものを作り、その周りを変化や起伏に飛んだ回遊性のある道で取り囲む。

そして、そこにはテーマに沿ったたくさんの展示物や遊具、イベントを盛り込んだ遊環構造とすることで、感動や満足感を順を追って体験してもらい、既存利用者に再訪を促すどころか新規の利用者をも新たに連れてきてもらえるような仕掛けをあらかじめ作っておくという寸法だ。

もちろん、総工費だけでなく、未来に掛かる維持修繕費は営業収益を圧迫するものであってはならない。優れた建築デザインはそれらすべてを実行できる力を間違いなく有しているはずだと仙田氏は力説する。

最後になるが、仙田氏が『人が集まる建築』で繰り返して唱える環境や歴史といった外的要素を積極的に取り込んでランドスケープ、建築デザインの根幹とする発想方法は、決して建築業界だけに言えることではなく、他多くの業界のモノ作りにおけるヒントが隠されていると思う。

ぜひ日本が誇る世界的建築家が惜しみなく公開した奥義を存分に味わってはいかがだろうか。

*続けて、新広島市民球場、AIU図書館、ゆうゆうのもり幼保園ほかでの仙田氏の発想を紹介します。
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