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全身詩人・吉増剛造の自伝がヤバすぎる! 77歳、その人生の記憶の奔流
我が詩的自伝』を上梓した吉増剛造さん

センセーションを起こした「やばい本」

―今年で77歳。その人生の記憶の奔流を縦横無尽にめぐる『我が詩的自伝』は、「前代未聞の新書」としてセンセーションを巻き起こしています。

書店員の方が「やばい本が出た」なんてツイートをされてたりね(笑)。これは僕の自伝ではありますが、単なる語り起こしではなく、語る僕と聞き手の方と編集の方の3人でコンボを組んでつくりあげたものなんです。

結果、不思議なことに「もうひとりの自分」が出てきたというか。読者の方からは「本の中からこれまで聞いたことのない声が聴こえてくる」なんて感想をいただきました。

詩というものは連想形式で思考を動かしていくんですね。だから一般的な散文とは違う思考が常に動いていて、あちこちに話が飛んだり、また同じ話に戻って別の角度から繰り返したりする。まとめる側は大変だったと思うけど、クラシックでいうフーガみたいな声の重なりが体感できる本になったんじゃないかなと。

―戦時中の和歌山への疎開にはじまり、ごくごく幼い頃の情景が、手触りまで残るほどくっきり刻みつけられていることに驚嘆しました。

僕の中の最初の記憶は2歳の時。「剛ちゃん、今度の戦争は大東亜戦争っていうんだよ」という祖母の声なんですね。

いわば精神の「はじまり」の部分から、戦争という暗い記憶を吸い込んだ。傷だらけのフィルムみたいな感受性です。

たとえば同じ頃に見た、白衣を着た3人の死人の幻覚なんてものも、はっきりと覚えています。それは僕の記憶力の異常さというよりも、当時みんなが「非常時」の空気に翻弄されていた結果だと思う。

そこにあったのは共同幻想のようなものです。今となっては「海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍」なんて軍歌を口ずさんでいた自分を消してしまいたいけれど、子供だった当時の僕はみんなと一緒に喜んで歌っていた。時代の傷ですね。