国際・外交 国家・民族 台湾 読書人の雑誌「本」
台湾に親日家が多い「本当の理由」~意外と知らない“日台関係の深層”を直木賞作家がひも解く

文/乃南アサ(作家)

あの建物は一体何?

つい先日、台北の街を縦横に走る台北捷運(MRT)に乗っていたときのことだ。すぐ傍に三人連れの日本人がいた。母親らしい女性は六十前後だろうか、カジュアルな服装にサンダルという出で立ちで、どこかで買い物をしたらしく、商品が透けて見えるポリ袋を提げている。

彼女の傍らにはタンクトップにショートパンツ姿の二十歳前後に見える女の子と、その子の彼氏なのか兄なのか、キャップをかぶったラッパー風の格好で、首筋と足首にタトゥーを入れている二十代らしい男性がいた。三人は揃って窓からの風景を眺めていたが、ふいに女の子が窓の外に見えてきた建物を指さした。

「ねえねえ、あれ、何だろう」

母親らしい女性は「さあ」と首を傾げている。

「寺とかじゃねえ? すげえ、でけえ」

若い男が言った。持ち物や雰囲気から、台北在住の人たちなのだろうとばかり思って彼らを眺めていた私は、しばし啞然となった。そのとき窓の外に見えていたのは観光名所の一つ、ポスターなどでも散々見かける円山大飯店(グランドホテル台北)だったからだ。ガイドブックの一つも見れば間違いなく、しかも表紙あたりにどんと載っている巨大な建物を知らない人がいたとは。

だが、実は台湾を旅していてこういう日本人を見かけるのは、さして珍しいことではない。何しろ台湾は、日本人にとって一番身近な「海外」だ。治安も安定しているし日本語も通じやすい。格安ツアーもたくさんあるから、それこそ学生や旅行初心者にもぴったりと言って良い。だから、それこそ近所を歩くような格好のままで、気軽にひょいとやってくる人は少なくない。

彼らの多くは台湾に着いたら、まずは夜市を見て回り、小籠包やマンゴーアイスクリームに舌鼓を打って、気が向けば故宮博物院や中正紀念堂、それから台北101辺りでも訪ね歩き、夜は足裏マッサージ。お土産はパイナップルケーキにからすみ、凍頂烏龍茶といったところだろうか。