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デザインから「未来」が生まれる!? “スペキュラティブ・デザイン”とは何か

問いを提起し、思考を促す
〔photo〕iStock

 
TEXT 池田純一

 思索的なデザイン?

21世紀に入り人類は、テクノロジーを介して地球と共生を図る時代を迎えている。前々回に紹介した「人新世(Anthropocene)」という時代概念である(「超知性」が人類を滅ぼす日は来るのか http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48597)。

そして、この人新世という時代の意味を受け止めた上で、そのような未来にふさわしい創作物のあり方を探求する際のよきガイド役となるのが、今回紹介する『スペキュラティヴ・デザイン』だ。

直訳すれば「思弁的ないしは思索的デザイン」となるこの本は、実際に手に取って眺めてみればわかるように、多くの創作物がカラー写真で紹介されているのであるが、造形的には思いの外、利用者に対して違和感を与えるようものが多く、それゆえ、なかにはデザインというよりもアートといった方が適切に思えるものも散見される。あれ? と思わせて、そのまま考えさせられてしまうのだ。

とはいえ、これだけでは唐突過ぎて、さすがに文脈が見えにくいかもしれない。特にITやイノベーションといった今まで扱ってきた話題とは距離があるように思われてもしかたがない。

そこでひとつ補助線を引いてみよう。それはBrexit騒動である。

『スペキュラティヴ・デザイン』の著者は長年、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で教鞭を取っており「スペキュラティヴ」というコンセプトに至る過程には、ロンドンやイギリスの創作活動をとりまく現状というコンテキストが前提になっているように思われるからだ。

「クール・ブリタニア」の担い手

イギリスのEUからの脱退を巡るBrexit問題は、6月23日の国民投票の結果、賛成が反対を上回り、イギリスのEU脱退が選択された。

投票結果後の為替相場の激動から、もっぱら金融経済への危惧が囁かれているが、しかし、IT登場後21世紀に入って社会人になったミレニアル世代からすれば、もっと気になることは、デザイン/アートに代表されるイギリスのクリエイティブ産業がこれからどうなっていくのか、ということの方にある。

実際、6月22日までにイメージされていたEUとともにある未来を継続していくために、ロンドンのファッション・デザイナーたちは、EUへの残留を望み、たとえば胸元に「IN」と記されたTシャツをデザインし、イギリスの人びとにEU脱退には反対するよう訴えていた。

彼らロンドンのファッション・デザイナーたちは、いわゆる「クール・ブリタニア」の担い手の一角であり、20世紀後半の辛気臭い老大国のイメージを一新し、21世紀にふさわしい「新しいイギリス」のイメージを形成したクリエイティブ産業の中核をなしていた。