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「爆買い観光客」がどれだけ増えても、人口減少に苦しむ地方は救われない

地方はどう変わればいいか?
貞包 英之 プロフィール

「爆買い」の背景――特別の商品が買える意味

ではなぜ中国を中心としたアジア内から多くの人びとが来日し、買い物をしているのだろうか。

それについては、①中国人をおもな対象としたビザ発給条件の緩和、②2014年以降、免税を食品や医薬品、化粧品にまで拡充したことなど、法制度的改革の効果がしばしば指摘されている。

さらに、③アジア地域の経済的成長や、④円安の進行、または、⑤日本国内の長期のデフレ傾向も当然見逃せない。アジアの経済が成長し購買力が増加するなかで、日本のモノやサービスは割安に映るようになった。そのおかげで訪日旅行は、アジアで増大する中間層にまで解放されたのである。

ただしそれだけでは訪日客が増加し、「爆買い」していく根拠としては貧弱である。世界でみれば、渡航にかかる時間や費用の大きさや、外国人に対する「おもてなし」の点で、実は日本は望ましい観光地とはなおみられていないためである。

たとえば『観光白書』が紹介する「国家ブランド指数」で日本は、総合で6位に入っているにもかかわらず、「歓迎されていると感じられるか」(13位)、「その国の人を身近な友達に欲しいか」(14位)、「相当期間その国に住み、働きたいか」(18位)の点では、日本語という壁のせいもあり、かならずしも高く評価されてはいない。

それでもなぜ多くの人びとが、近年日本に来て、大量の商品を買っていくのか。そのひとつの理由として、日本で特別の商品が買えることが、やはり大きいと考えられる。

たしかに近年のグローバル化のおかげで、日本の多くの商品が海外で買えるようになってきた。ただしそれらの商品は、①関税のためにしばしば高額になるか、②規制や消費者の好みのせいで日本オリジナルのものとは別物であることが多い。とくに医薬品や化粧品は、各国の薬事法の関係から、同じ商品名でありながら成分がしばしば異なっているのである。

そのため日本に来て直接、商品を手に入れることが好まれている。8割を超える中国からの訪日客がドラッグストアを、また7割以上が百貨店を訪れ、化粧品や医薬品、菓子類、電化製品などを買っている。そうして持ち帰られた商品が土産として親類や友人に配られ、またなかば業務としてネットで転売されているのである。

この意味では「爆買い」の構造的土台として、日本の「消費社会」が積み重ねてきた歴史の厚みが重要になる。冷戦の崩壊以後、中国の経済成長やネットの膨張を大きなきっかけとして、アジアの国ではこれまでの歴史的関係を問い直すさまざまな対立が生まれている。だがそれとは別に、日本の「消費社会」に対する信頼はなお大きい。

日々商品を選ぶことで、私たちは割高で品質の怪しい商品を淘汰している。たしかに日本の市場でも純粋な日本製のモノは少なく、多くが中国や東南アジアで生産されている。けれどもモノの出所以上に、日本の市場でくりかえされる「競争」のほうが大切に扱われる。

つまり訪日客は自分の「国家」や「市場」以上に、日本の「消費社会」で積み重ねられてきた私たちの選択を信用し、わざわざ日本に来て商品を買っていくのである。

もちろんアジアで「消費社会」がまったく広がりをみせていないわけではない。日本の消費者の選択が場合によっては過剰に持ち上げられるのは、それが商品に特別の「差異」をもたらすいわば後見人として信憑されているからである。

2015年の一人あたりのGDP(ドルベース)をみれば、シンガポールや香港は日本をとうに超え、韓国や台湾は日本のバブル期の水準に達し、中国やマレーシアは日本の高度成長以後に匹敵するまでに成長している。そうして豊かさを増した社会のなかで、自国では買えない安全で洒落た商品として、日本の商品は買われ、しばしばSNSのなかで持ち上げられている。

こうして一段上の消費が目指されているという意味で、「爆買い」現象は、アジア諸国への「消費社会」の急展開をあくまで踏まえたものといえる。アジアに拡がり始めた「消費社会」が、商品を格上にみせる秘密の価値の源泉として、日本のより歴史を持った「消費社会」を「発見」することで、「爆買い」は生じているのである。