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病は気から、小説は病から!?
芥川賞選考委員・山田詠美「創作の秘密」

祝・川端康成文学賞受賞
川端賞受賞作を収録した最新刊『珠玉の短編』

今年、「生鮮てるてる坊主」という短編で第42回川端康成文学賞を受賞した山田詠美さん。川端賞は昨年1年間に発表された短編小説の中で、最も完成度の高い作品に贈られる賞です。

受賞作を含む11本の短編を集めた作品集『珠玉の短編』は、意外な“病”から生まれた!? 30年以上も第一線で書き続けている作家が罹ってしまった病とは――。

言葉の妄想が止まらない

昔、私の女友達が、しきりに「あー、胸クソ悪い」と言っていたので、いったい何があったのよ? と尋ねてみました。すると、彼女は、こう返したのです。

「基地(ベース)の中のカフェテリアで脂っぽいフライドチキンを食べ過ぎちゃった」

山田詠美さん

……それ、使い方、違うんじゃない? と言う私に、そお? としれっと返した彼女。そうだよ、そういう時は胸がむかつくって言うべきでしょう、と呆れながらも、私は思ったのでした。そういや「胸がむかつく」は、体、心のどちらの不快感にも使えるなあ、と。

すると、途端に愉快になってしまい、胸クソやらムカツキやらの行く末を、あれこれと考えて止まらなくなってしまったのでした。胸クソの代わりに「けったクソ」ってのも使えるよね。え? でも、「けった」って何のこと?

調べてみると、「けった」は「卦体(けたい)」が縮まったもので、易の卦に現われた算木の様子だそう。それは占いの結果を意味し、転じて縁起を表わす言葉になったとか。そっかー、けったクソ悪いは、縁起悪いってことだったのね。じゃ、胸クソの代わりにならないじゃん!