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オバマ大統領の退任が世界にもたらす地殻変動~米国の「リバランス」政策はどこへ向かうのか
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文/佐藤丙午(拓殖大学教授)

「アジア・ピボット」の重要性

21世紀の米国の経済的繁栄を支えるものはなにか?

地域の平和と安定が維持される限り、それがインド太平洋諸国との貿易や投資であることは、人口動態や市場規模、さらには今後の成長見込みを加味して考えてみると当然といえるであろう。

米国の貿易額を見ると、すでにインド太平洋との貿易額は欧州のそれを超えており、否応なしにこの地域の安定は、経済的にも死活的利益となっているのである。

このような状況の下で、オバマ大統領がアジア太平洋を重視し、そこに政治、経済、軍事資源を投入するのは当然の帰結といえる。

マクロな視点で見ると、米国のアジア重視はブッシュ政権の時代からの一貫した方針であり、対テロ戦争やイラク戦争などの影響を考慮したとしても、その姿勢に大きな変化は見られない。

オバマ大統領は、第一期目からアジアへの「ピボット(軸足移動)」や「リバランス(再均衡)」を強調し、2013年の防衛戦略ガイダンスでも、「アジア・ピボット」を改めて述べるなど、その重要性を再確認している。

オバマ大統領が発した「リバランス」の言説は、域内諸国からは期待で迎えられた。しかし同時に、失望も生む結果になった。

公平に見ると、米国のアジア重視には、実質が伴っていた。オバマ大統領は2011年11月に豪州議会でアジア政策の演説を行い、海兵隊のオーストラリア駐留を発表。その後シンガポールにLCS(沿岸戦闘艦船)の配備を進めるなど、「リバランス」には具体的な内容は伴っていた。2015年の日米安全保障ガイドラインの改訂も、その一部を構成する。

しかし、米国は軍の資源の過半数以上をアジアに配置しており、関与は強化されている。豪州への配備の規模の小ささ、LCSの戦術的意味合い、さらには米国債の世界最大の保有者である中国と、米国は対立関係を望まないであろうとう域内各国の予想などが、オバマ大統領個人の現実主義的な側面と相まって、米国は実体的に関与を後退させるのではないかという見方が補強している結果なのであろう。

2016年の大統領選挙における共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏の外交政策に関わる演説でも、米国がリベラル国際主義を推進する特別な国ではなく、国益を追求する普通の国へ転換するべきとの主張が明確に示されている。