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「遊園地」はいつも驚きの連続だった~あの頃に戻るための小説『遊園地に行こう!』
Photo:iStock

文・真保裕一(小説家)

夜の遊園地へ

小学生のころ、隣町に遊園地があった。団地の自宅から、子どもの足でも歩いて20分ほどの距離だった。

今から40年も前のことになるので、記憶はかなり薄れている。高速道路と干潟にはさまれた地にあり、コースターや観覧車などの乗り物のほかに、小さな動物園も作られていた。

春には園内にバラが咲き、夏場にはちょっとした磯遊びも楽しめたと思う。誇れるような豪華さはなく、ささやかな遊園地だったかもしれない。それでも親にせがみ、幼いころは何度も連れていってもらったものだ。

50歳をすぎた今になって振り返ると、なぜか楽しかった思い出は甦ってこない。当時の家庭環境があまり良好だとは言えなかったこともあり、せつない記憶と重なっている。

一緒に行くのはいつも片親とだけ。行き帰りは徒歩だったから、遊園地を出ると、たちまち現実に引き戻された。高速沿いのさびれた埃っぽい道をとぼとぼ歩いて帰ったことが、もの悲しくも思い出されてくる。

そんな中、印象深く記憶に染みついている光景がある。営業を終えたあとの夜の遊園地だ。

近くで埋め立て地が作られていたため、周辺には空き地が多く、資材置き場もあって、子どもたちには格好の遊び場になっていた。今と違って遊園地の警備はのどかなもので、高速道路を越えてしまえば、裏手に続くフェンスにたどりつけた。

多少の危険をともなう冒険は、子どもの胸を熱くする。誘惑は断ちがたく、悪友たちと誘い合わせて夜に家をぬけ出し、近くの公園で落ち合うと、車が激しく行き交う高速道路の高架をくぐり、遊園地の裏手からフェンスを乗り越えて潜入した。

正直に告白すれば、友人に誘われてついて行きはしたものの、かなり腰が引けていたと思う。見つかったら、大目玉を食らう。でも、弱虫だと思われたくなく、虚勢を張って仲間に加わった。