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三菱自動車、歪んだ「エリート意識」の末路〜10年前に書かれた池井戸潤『空飛ぶタイヤ』の洞察力がスゴい

「これほど怒りに駆られて書いた小説はない」
現代ビジネス編集部 プロフィール
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「どうなってんだこの会社は」

小説の舞台は世田谷区等々力にある「赤松運送」。トラック80台、年商7億円、従業員90名の中小運送会社である。社長の赤松徳郎と従業員達は自らに科せられた汚名を雪ぐため、財閥系自動車会社の「ホープ自動車」に立ち向かっていく。

事の経緯はこうだ。

横浜市内の国道。赤松運送のトレーラーは、後ろに13トンのセミトレーラーを連結して法定速度の40キロで走行中、前部左側のタイヤが外れた。タイヤは坂道を加速して転がり、偶然にもそこを歩いていた33歳の主婦・柚木妙子の背中に激突。主婦は病院に運ばれるがまもなく死亡。一緒に歩いていた6歳の長男は軽傷で済んだ。

事故車両は販売元のホープ自動車販売が回収し、警察は事故原因の鑑定をトレーラーの製造元であるホープ自動車に依頼した。そして、警察から発表された調査鑑定結果は「整備不良」。財閥系の巨大企業であったホープ自動車の鑑定に、警察、遺族、誰もがその結果を信じた。

だが事故後、赤松運送への連日の陸運局による運行管理と整備管理に関する徹底的な検査では「減点無し」。さらに整備担当者の完璧な整備記録を見た赤松は、自社の整備に落ち度がないことを確信する。

ホープ自動車の鑑定結果に納得しない赤松は、ホープ自動車に再調査の依頼と、事故部品の返却を求める。

だが、何度面会を求めても中小企業の男の言うことを、ホープ自動車の担当者は鼻であしらい、事故は終わったこととして会おうともしない。再調査の要望を拒否するホープ自動車側と赤松のやり取りがある。

「ウチは長年、御社のトラックを買ってきた。(中略)大した値引きを要求することなく、いつも最優先で購入を決めてきた。(中略)これがお宅の回答ですか。それが、長年の客に対する御社の気持ちですか」
「調査結果ひとつ、見せるのを拒否してるんですよ。そんなに融通の利かない会社なのか、ホープ自動車というところは」
「お宅にはCSという言葉がないのか」

すると担当者は、

「ありますよ、もちろん。本当のお客様には満足していただくために頑張っています。ですが、私どもにだってお客様を選ぶ権利はあります」

敷居が高い、財閥系の自動車会社。どうなってんだ、この自動車会社は。タイヤが外れる前に、こいつらの心からもっと大切な部分が外れちまったんじゃないか、と赤松は思う。

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