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三菱自動車、歪んだ「エリート意識」の末路〜10年前に書かれた池井戸潤『空飛ぶタイヤ』の洞察力がスゴい
「これほど怒りに駆られて書いた小説はない」
〔photo〕gettyimages

フィクションだけど、図星

「『空飛ぶタイヤ』? ええ、知ってますよ。迷惑してるんですよね、ああいうの――。本書の出版当時、某自動車会社の役員が、わたしの友人に吐き捨てたセリフである。本書の舞台は、“罪罰系”自動車会社、ホープ自動車だ」(池井戸潤氏)

作家の池井戸潤氏が小説『空飛ぶタイヤ』を刊行したのは2006年。小説のモチーフは"罪罰"系の自動車会社でもちろんフィクションだ。ところが某自動車会社の役員は、池井戸氏の友人に愚痴とも思える言い掛かりをつけ小説を非難していたのである。

2016年4月20日、三菱自動車の軽自動車4車種の燃費データ不正が発覚した。燃費を測定する際の前提となるデータで、燃費悪化の原因となる「走行抵抗」の値を意図的に小さく算出。この結果、実際より5~10%ほど良い燃費が公表されていた。

燃費データ不正は、三菱自動車の本社の管理職が、燃費の試験を委託した子会社にデータ改竄を指示していたことが分かり、5月13日、国土交通省は三菱自動車本社へ立ち入り調査に入ったのである。

その後、燃費のデータ不正は軽自動車の4車種に留まらず、過去10年間に販売された乗用車14車種など、現在発売している車を含めると20車種にも及んでいることが判明した。

三菱自動車本社の中枢にいる幹部社員が、本社に立ち入り調査が入った直後、うつろな表情でこう語った。

「今度の事件後、同僚から『読んでみろよ』と渡されたのが『空飛ぶタイヤ』でした。自分の会社が起こした事件がテーマだということは聞いていましたが、読むうちに“当時の事件”を思い出し、読み終わるころにはうちの組織や体質が真実のまま書かれていることに納得するほかありませんでした。

今回の事件は三菱自動車の企業風土を改めて思い知らせてくれた。これはまさに小説に書かれたホープ自動車の企業体質そのものです」

小説『空飛ぶタイヤ』の売れ行きは、三菱自動車の燃費データ捏造事件が発覚後、週間の売り上げがそれまでの2倍以上に伸び、100万部を超える勢いだ。事件を契機に改めて注目されてきた『空飛ぶタイヤ』を手に取ると、そこに社会常識から大きく乖離した財閥系自動車会社の紛うことのない姿が見えてくる。