不正・事件・犯罪 国際・外交 テロ イギリス EU
イギリス「EU離脱」問題、一発の“凶弾”は歴史の針路を変えるか? 国民投票直前レポート
女性国会議員殺害事件のインパクト
凶弾に倒れたジョー・コックス議員 〔photo〕gettyimages

国民投票の雲行きが変わった?

EU(欧州連合)離脱の是非を問うイギリスの国民投票が23日に迫った。離脱派優勢が報じられる中で、残留派の女性国会議員、ジョー・コックスさん(41)が射殺され、国民投票の行方は混沌としている。

現場で逮捕されたトーマス・メア容疑者(52)は18日、ロンドンの治安裁判所での人定尋問で「私の名前は、『裏切り者に死を イギリスに自由を』です」と述べた。容疑者は過去に精神疾患での治療歴があり、南アフリカやアメリカの極右団体の機関誌、出版物を購入していた時期もあったという。

殺害の動機は不明だ。イギリスのメディアは国民投票に絡めた報道を抑制しているものの、事件は同情票を生み、残留派を有利にするとの見方も出ている。

19日付の日曜紙各紙の世論調査結果によると、押し並べて残留支持が勢いを取り戻し、両派は再び拮抗。保守系メール・オン・サンデーの世論調査では、残留支持(45%)が離脱支持(42%)を上回る結果となっている。

欧州統合の行方や、国際情勢にも多大な影響を与えるとして結果が注目される国民投票。「凶弾」が結果を左右し、歴史の流れを決めるのだろうか。

* * *

事件は16日の昼過ぎ、イギリス中部の主要都市リーズ郊外のバーストールで起きた。

メア容疑者はコックスさんを襲った際、“イギリス第一”を意味する“Britain first”または ”put Britain first” と叫んでいたという。今回の国民投票では、「Britain First」という聞き慣れない極右団体が離脱キャンペーンを展開しているというが、今のところ、両者をつなぐ接点は見つかっていないようだ。

不吉な予兆はあった。5月30日付の日曜紙サンデー・タイムズに掲載された保守党内の対立激化を伝える記事中に、離脱派の保守党議員の発言が匿名で載っていた。

“首相(キャメロン氏)を背後からではなく、正面から刺したい。顔の表情を見ることができるからな。そして、そのナイフをえぐって抜く。次に、オズボーン(財務相)に使うためだ”

発言は、残留派キャンペーンの顔であるキャメロン首相とオズボーン財務相をその座から引きずり下ろすことの比喩のようだが、それにしても、度を超している。

キャンペーンでは、残留派の「離脱に伴う経済的な損失」の主張と、離脱派の「残留がもたらす移民増大の悪影響」の主張が過激化し、双方が「でたらめを言うな」と非難合戦をエスカレートさせていた。

こうした不穏なムードの中での先の保守党議員の発言である。社会のムードとして、暴力沙汰を誘発してもおかしくない土壌が醸されていたように思える。