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台湾から輸入したトラックをフル改造……現代美術家やなぎみわが「移動舞台車」で目指す“表現”の地平
はたしてこれは「演劇」なのか?
〔PHOTO〕表 恒匡

6月末に横浜で行われる、待ち望んだイベントについて、プレビュー記事を書きたい。だがその「イベント」がいったいなんなのか、説明できる言葉が見当たらずに、筆が止まっている。

試しに、公式サイトや宣伝チラシの類を参照すると、それは「野外演劇」であり、「演出家・美術家」の、やなぎみわによる作品と書いてある。『日輪の翼』というタイトルで、小説家・中上健次による同名の小説ほか二作を含む、中上文学の「舞台化」にあたる。これが神奈川芸術劇場の「プロデュース」によって、横浜赤レンガ倉庫の屋外イベント広場で公演されるのだ。

一見、毒にも薬にもならない基本情報である。

だがこうした言葉を拝借してそのまま使うと、やなぎが行おうとしていることを、台無しにしてしまうのではないか。平然と流布するこの手の情報は、じつは多分に「毒」を含有するのではないかと思えて、躊躇してしまう。

「肩書き」の裏側に存在するリアリティ

第一に、やなぎみわは「演出家」なのか、という問題がある。

近年、やなぎが公の場で講演したり、インタビューを受けたりすると、必ず聞かれるのが、「写真家であるはずのあなたが、なぜ演劇をやるのか?」という質問である。

確かに、やなぎみわ、といえば、2009年のヴェネツィア・ビエンナーレで日本館の代表まで務めた美術作家であり、その作風は、主に「エレベーターガール」、「マイ・グランドマザーズ」、「フェアリーテール」といった写真シリーズで知られる。

筆者も当初、著名な写真家であるやなぎが、演劇に転身したという話を聞いて、その解せない行動に興味を持った。その後、本人に会う機会に恵まれ、1年半ほどにわたって『日輪の翼』を準備中のやなぎと会話を重ねた今、筆者は、当初抱いた疑問はじつに的外れであったと感じている。

つまりやなぎは、「以前、写真家であった」とも、「近年、演出家になった」とも、おそらく思ってはいないのだ。