週刊現代
世界的な評価を受ける日本画家が選ぶ「人生最高の10冊」〜芸術性を大飛躍させてくれたもの

この本で私は大きく羽ばたいた

人生で最も大きな影響を与えられた本は、何といっても瀬戸内寂聴さんの『源氏物語』です。

私はこの本の装幀画を担当したのですが、日本画家なら源氏物語は誰しも、一度は描いてみたいテーマ。

とはいえ、54帖の装幀画となると、通常ならば複数の画家が分担し、何年もかけてようやく完成させるような大仕事です。それをわずか2年で、しかもたった1人で、描いてほしいと依頼された時の驚きはたとえようもありません。覚悟を決めるまでのプレッシャーたるや、生半可のものではありませんでした。

最初のころは、綿密な時代考証に拘泥して四苦八苦しましたが、やがて自由な感性で思い切り描けるようになった。

というのも、寂聴源氏は、それまでに書かれた与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子らの現代語訳とは違い、登場人物があまりにも生き生きと描かれていたからです。

光源氏を筆頭に、葵上も六条御息所も、性格はもちろん、肌質や声色まで、ありありと想像できるほど。

揺れ動く恋心、嫉妬、憎しみといった感情は、平安貴族も現代人も、何ら変わりはありません。

そんな作品とめぐりあったことで、私の創作意欲も大いにかき立てられました。この経験が、画家としての活動の場を大きく広げてくれたのだと思っています。

そもそも私は、終戦直後に満州で生まれ、生後間もなく一家で鹿児島に引き揚げてきました。もののない時代でしたから、幼いころは、絵本などは満足に見た記憶もありません。

ただ高校教師をしていた父親が読書好きだったせいか、中・高校生のころには自然と図書館に通い、読書に親しむようになっていました。

東京藝術大学に入学し、上京したころは、見るもの聞くものすべて新鮮で、さまざまな刺激を受けました。東京五輪に大学紛争……。世の中が目まぐるしい変貌を遂げていた時代です。

美術界ではポップアートなどアメリカ現代美術がもてはやされ、伝統的な花鳥画など古臭いとしか思えなくなりました。私自身も当時は油彩画風の作品やシュールな人物画を描いて、「西洋かぶれ」になっていましたね。